難関大学への進学者が多い中高一貫の伝統校では、どのような教育を行っているのか。生徒たちはどのような学校生活を過ごしているのか。関西を代表する名門女子校である四天王寺高等学校・四天王寺中学校の中川章治校長に話を聞きました。

失敗を恐れず挑戦し、最後までやり抜く力を育む

――貴校は昨年、100周年を迎えた伝統ある女子校です。難関大学への進学者も多いですが、先生から見た生徒の印象や特徴を教えてください。

本校の生徒はとにかく元気で明るいですね。何事も目標を決めたらコツコツと努力を重ね、最後までやり抜く強さをもっています。失敗や挫折をしてもくじけず、気持ちを切り替えるのがうまい子が多いと思います。本校では授業や部活、学校行事を通して「何ごともやり抜く力」を育むことを大切にしています。結果より、失敗を恐れず挑戦し、最後まで頑張り抜いたことを評価します。本校には小学校時代に受験という目標に向けて、地道な努力を積み重ねてきた子どもが入学してきます。そのような生徒が周囲の友人や先輩が頑張る姿を見ながら6年間を過ごすなかで、さらに「やり抜く力」を磨きあげていくのだと思います。

――卒業生は医療関係や理系分野に進む方が多いですね。

そうですね。ただ最近は、既存の枠にこだわらず、新しいことに挑戦している卒業生が多いです。起業する卒業生も増えています。モデルをしながら起業した人がいれば、ロンドンでお好み焼き屋さんを開業した人もいます。ちなみに大学に入学した卒業生がよく「女子大学生には3種類いる」と言います。「共学出身」「女子校出身」「四天王寺出身」の3タイプだと言うのです。それだけ本校出身の生徒は個性的で、独特なカラーを持っているのだと思います。

――貴校は1922(大正11)年に聖徳太子1300年御忌記念事業として創設されました。聖徳太子が建立した四天王寺の境内のなかに学校があるのは大きな特色です。

重要文化財に指定されている鳥居や建築に囲まれ、すべての教室に十七条憲法が飾られているような学校は他にないと思います。本校では聖徳太子の和の精神を根本に、生徒一人ひとりの個性と能力を伸ばすこと、仏教に基づく人格形成に力を入れています。毎朝の朝拝では十七条憲法をもとにつくられた学園訓を斉唱し、週に一度の仏教の授業では、感謝の気持ちや他人のために尽くす利他の精神の大切さを学びます。

四天王寺高等学校・四天王寺中学校の中川章治校長

女性であることを意識せず、人間としての個性や能力を伸ばせる

――女子校ならではのメリットを生かした教育も大きな特色ですね。

思春期に、男女を分けて教育することには大きな意義があります。多感な時期の女子は、男子の目を気にして無意識にブレーキをかけてしまうことがあります。失敗して恥をかくようなことを避けてしまいがちなんですね。でもこの時期は失敗や恥ずかしい思いをしたことこそが一番、成長につながります。またジェンダーバイアスの強い日本では、男子の前では女子は無意識に「女性はこうあるべき」といった規範に引きずられる傾向があります。その点、女子校では「女性はこうあるべき」といった規範から自由でいられます。自分の性を意識せず、失敗を恐れずに、一人の人間としての個性や能力をとことん伸ばせるのです。本校の生徒は勉強も部活も学校行事も、本当にのびのびと、全力投球で取り組んでいます。

――貴校は難関大学の医学部や理系学部に進学する生徒が多いですが、授業も女子校としての特色があるのでしょうか。

個人差はもちろんありますが、思春期の男女には学習面においても違いがあります。女子生徒は何ごともきちんと理解したうえで、次のステップに進む傾向があります。ですから、とくに数学は時間をかけて丁寧に教え、つまずいた時のフォローに力を入れています。小テストやノートの点検で振り返りを重ね、生徒がいつでも気軽に先生に質問できる学習プラザという場を設けています。また、本校は週6日制で7時限まで授業を行う日もあるので、それだけ時間をかけて丁寧に教えることができます。

――卒業生の大学生が勉強を見てくれる学習サポーター制度も有意義ですね。

本校の生徒は6年間、濃厚な学校生活を送るため、卒業後もみなさん本当に仲が良いです。母校愛が強く、後輩のために自ら手をあげ、さまざまな支援をしてくれています。私学の良さで教員も長年勤めているため、卒業後もよく学校に遊びに来てくれます。各界で活躍する卒業生によるキャリア講演会、医療現場や研究室の見学も好評です。

生徒の志望、進路に合わせた四つのコースを用意

――貴校では医志コース、英数Sコース、英数コース、文化・スポーツコースという4つのコース制をとっています。それぞれの特徴を教えてください。

医志コースでは国内外の最難関の医歯薬系大学・学部の入試を突破する実力を養い、大学での高度な研究に対応できる人材の育成を目指しています。文化・スポーツコースはアスリートやアーティストとして活躍する夢をもった人のためのコースで、難関大学への進学を前提にしたものではありません。英数コースは難関大学への進学を目指すコースで、本校の伝統である理解してから次のステップへ進む授業に力点を置いています。このコースの生徒は中学2年の進級時に、医志コースか英数Sコースへ変更することもできます。

英数Sコースでは難関大学に加え、海外大学への進学も視野に入れた国際人の養成を目指しています。コース名の「S」はSTEAMScienceTechnologyEngineeringArtsMathematics)教育の頭文字です。英数Sコースでは副担任にネイティブの先生がつき、放課後の英会話レッスンがあります。探究授業では中学2年から、海外で盛んな演劇教育を取り入れています。プロの劇団の方に教わり、自分たちでシナリオを書いて劇を発表する体験を通し、表現力やコミュニケーション能力、集中力や協調性を養うのです。

――海外体験ができるプログラムにはどのようなものがありますか。

本校の生徒には海外体験を積極的にしてもらいたいと考えています。海外プログラムとしては、イギリスのチェルトナム・レディース・カレッジの寮に2週間滞在し、課外活動や国際交流を行う語学研修を用意しています。ホームステイで異文化体験をしながら、現地の学校の授業に参加できるオーストラリア・ブリスベンでの海外語学研修もあります。さらに春休みや夏休みに5日間、1限から6限まで本校で英語漬けの研修を行うプログラムも好評です。ちなみに今年の修学旅行は、中学校では台湾、高校では北海道とシンガポールの選択としています。

四天王寺高等学校・四天王寺中学校の中川章治校長

中学受験で頑張った経験はその後の人生の大きな力に

――大阪城ホールで行う体育祭、創作ダンス発表会などの行事、さらに部活も活発ですね。

本校では体育の授業を一部、ダンスの授業にしており、春の体育祭で創作ダンスを発表します。クラス対抗の合唱コンクールも伝統です。中学から入学した生徒は高校受験がないので、とくにのびのびと行事や部活に取り組んでいますね。卒業生の多くが、学校行事の経験が社会に出てとても役立ったと語っています。部活や行事を頑張っていた生徒ほど、難関大学に合格する傾向もあります。このような生徒に共通するのが、時間管理が上手く、何ごとも最後までやり抜く力をもっていることです。

――最後に貴校を目指すお子さんや保護者へメッセージをお願いします。

中学入試は、小学校時代の興味関心の延長線上にあるものです。何ごとにも好奇心をもち、自分の頭で考える習慣が大事です。保護者のみなさんにはぜひ、日頃から子どもの興味関心を伸ばすよう心がけていただきたいと思います。また本校を志望する生徒の一番の決め手となるのがオープンスクールや文化祭です。そこで何ごとにも全力投球している先輩たちの姿を見て、この学校に入りたいと思うようです。その思いが受験勉強のモチベーションにもなりますので、ぜひ一度、本校を見学していただきたいと思います。

中学受験の勉強はお子さんにとって大変だと思います。ときにはつらい時もあるでしょう。でも諦めずに努力を続けてほしいですね。結果はどうあれ、最後まで頑張り抜いた経験は、その後の人生で大きな力となるはずです。

四天王寺高等学校・四天王寺中学校 
中川 章治校長
なかがわ・しょうじ/1989年に四天王寺高等学校・四天王寺中学校の国語教師となり、2020年から高校教頭を務め、34年の教師歴を経て、今春、現職に就いた。