UCCホールディングス(以下、UCC)は、コーヒー産業を取り巻く現状をSDGsの視点から考える、小~大学生向けオンラインセミナーを全国各地で開催しています。「子どもたちが大人になった未来でもコーヒーが美味(おい)しく飲み続けられる世界」を目指して、UCCが取り組んでいる環境保護など様々なサステナビリティ活動から、次代を担う学生たちは何を学びとるのでしょうか。今回は、東京・品川にある青稜中学校の2、3年生が参加したオンラインによる「出張授業」の模様をお伝えします。
コーヒーが飲めなくなる未来がくる? コーヒー産業が抱える課題
青稜中学校では毎週月曜の6、7時間目に、2、3年生を対象にしたゼミナール形式の授業を行っています。生徒たちは自身の興味にあわせて14あるゼミのいずれかに所属しています。この日UCCが提供する「コーヒーから考えるSDGsセミナー」に参加したのは、未来について考えるゼミ「2030~ミライへの挑戦~」を受講する49人の生徒たち。これまでも外部から講師を招いて授業を重ねているそうで、「生徒たちのSDGsへの関心はかなり高いです」と、ゼミを受け持つ校長の青田泰明先生は話します。
教室に入ると、1969年にUCCが世界で初めて開発に成功した缶入りコーヒー「UCC ミルクコーヒー」が1本ずつ手渡されました。コーヒーそのものをまだ飲んだことがないという生徒も10人ほどいましたが、思わぬプレゼントにみんな笑顔。講師を務めるUCCサステナビリティ推進室の願能千瑛(がんのう・ちえ)さんがスクリーンに登場すると、「こんにちは」と大きな声が教室に響きました。まずは、生徒たちとスクリーン越しに缶コーヒーで「エア乾杯」を交わし、リラックスしたムードで授業が始まりました。
「1本のコーヒーの木から、約何杯分のコーヒーがとれると思いますか?」
コーヒーの原料となるコーヒー豆が、世界のどこでどうやって育ち、私たちの元までやってくるのかを紹介した後で、願能さんが問いかけました。40杯、80杯、160杯、320杯の四つの選択肢を示された生徒たちは、ザワザワ。「結構とれるんじゃない?」「でもコーヒーの実、すごい小さいよ」などなど、周りの生徒たちと思い思いの意見を述べ合います。
挙手してもらうと、多くの生徒が選んだ答えは160杯でした。が、なんと正解は40杯。「えー!」「少ない!」と驚く生徒たち。1杯のコーヒーがとても貴重な存在であることがわかったところで、話題はコーヒー産業とSDGsの関係へと移りました。
「コーヒー産業には、2つの大きな課題があります」と願能さんは説明しました。それは「気候変動による脆弱(ぜいじゃく)性」と「小規模農家の脆弱性」です。
コーヒーは環境変化に弱い農作物です。地球温暖化が進めば、2050年には高品質なコーヒーの生産に適した土地が今の半分の面積になると言われています。また、世界のコーヒーの約80%が家族経営の小規模農家で生産されており、気候変動に備えて投資する余裕がありません。さらに、コーヒー豆は価格変動も大きく、安定した収入が得にくく、生産者のコーヒー離れも問題視されています。
このままでは、いつかコーヒーが飲めなくなる日がやってくるかもしれない。UCCではこの課題解決のために、人々と自然、その両方を豊かにする手助けをしようと、生産国の農園支援から、原料調達、輸入・検査、研究・開発、焙煎(ばいせん)・加工、販売まで、すべてのプロセスでサステナビリティ活動を展開していることを紹介しました。
サステナビリティを意識した取り組みが、地球にも人にも優しい未来をつくる
では、具体的にどんな活動をしているのでしょうか。まず生産国での取り組みについて紹介する前に、SDGsの17の目標のうち、「5.ジェンダー平等を実現しよう」に関するクイズが出題されました。
「2017年、男性より女性の国会議員が多い国がひとつだけありました。それはイギリス、ノルウェー、フランス、ルワンダ、ペルーのうち、どこでしょうか?」
コーヒーとどんな関係があるの?生徒同士の話し合いも活発になります。毎年発表されるSDGs達成度ランキングで北欧の国々が上位にいることから、7割の生徒がノルウェーと予想しました。でも正解は……ルワンダ! これは意外だったようで、教室もどよめきます。
授業の日はちょうど、2023年版のSDGs達成度ランキング(日本は166カ国中21位、ジェンダー平等は最低評価)が発表されたばかりとあって、生徒たちは興味津々です。なぜルワンダは女性議員が多いのか。願能さんによると、議席の3割以上を女性に割り当てるクオータ制を導入しているほか、1990年代の内戦によるジェノサイド(集団殺害)で男性が減ったため、女性の社会進出が進んだことなどが背景にあるそうです。
そして農業生産者として女性の経済的自立を後押ししたのが「コーヒー栽培」でした。2012年からUCCは、一つの村に一つの特産物(コーヒー)を作って地域を発展させる「一村一品プロジェクト」にルワンダで取り組みました。「高品質なコーヒーを育てるためのノウハウを伝えたことで、ルワンダの方々の収入アップにつながりました。収入が増加すれば、健康保険に加入できる人が増え、安心してコーヒー作りにも取り組めるようになります。単純にお金を寄付するのではなく、こういった支援の形もあることをみなさんに知っていただけたらと思います」
また、地域の人たちに安心な水を提供するため取水場の建設にも取り組んでいます。その結果、2万世帯(12万人)が生活用水の確保の苦労から解放されたエピソードは、現地のデイビットさんからのお礼のメッセージ動画と共に紹介され、生徒たちは真剣な表情でスクリーンに映し出された村の様子を見つめていました。
そのほか、UCCでは2030年までに自社ブランドで100%サステナブルなコーヒー調達を達成することを目標に、まず地球・人・製品に配慮した条件を満たして調達されたコーヒー豆を50%以上使用した製品にオリジナルの認証マークを付与する取り組みを進めていること、2040年までにカーボンニュートラルを達成するための施策の一つとして、抽出後のコーヒー粉をバイオマス燃料として活用していることなどを報告して、約1時間の授業は終了しました。その後休憩を挟んで、質疑応答タイムに入ります。
社会貢献する企業の姿勢から、自分たちの未来につながるヒントを探る
質疑応答のコーナーでは、青田先生が促すまでもなく、次々と7、8人の生徒の手が挙がりました。「日本では1日にどれくらいの量のコーヒーが飲まれていますか?」「コーヒーに合う食べものが知りたいです」「コーヒー豆の果肉は食べられるの?」……。予定時間終了ぎりぎりまで質問は続きました。「コーヒーの味が違う理由は?」という質問には、「豆の種類だけでなく、育った環境や栽培方法によっても味は変わります。生産される国や歴史によっても違います。ルワンダのような背景も含めて、今後もコーヒーのことに関心をもってもらえればうれしいです」と願能さんは授業を締めくくりました。
終了後、参加した生徒の一人に感想を聞きました。黒木音初さん(中2)は、小学生の時の授業をきっかけに、SDGsに興味を持ったといいます。「私はまだコーヒーを飲んだことがないから、UCCという会社を知りませんでしたが、セミナーでいろんなことに取り組んでいる会社だと知ることができました」。特に印象に残ったのは、認証マークの取り組みだったそうです。「UCCオリジナルのマーク以外にも、SDGsに関するさまざまな認証マークがあることを知ったので、これからはお店で買うときに意識してみようと思います」
「きょうの授業をきっかけに、じゃあジュースは?お菓子はどうだろう?と、なんとなく認証マークを探すようになると思います。すると、身近なものがSDGsにつながっていることがわかる。こうした気づきを、どんどん子どもたちの中に育てていきたい」と青田先生は話してくれました。
SDGs教育に力を入れている理由は、「子どもたちの未来のために行動している大人がたくさんいることを知ってほしいから」だといいます。「未来を思う大人たちや企業が、どんなやり方で社会貢献をしているのか。その方法や考え方を伝えることは、子どもたちが自分たちの手で未来をつくっていくときに必ず役に立ちます。ちょっとした発想の転換やクリエーティビティーが、困っている誰かの大きな助けになるということを、UCCさんの話から感じ取ってもらえたはずです」
中学生のうちから企業の考えを知るのは、自分たちが生きる社会へ思いをはせるきっかけにもなります。
青田先生は「何のために勉強するのかといえば、テストでいい点数を取るためではなくて、いずれ社会に出ていくためですよね。キャリア教育としても、今回のセミナーはとても有意義でした」と振り返りました。