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毎朝の礼拝も学びの場「自分の道」を開くヒントに

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国内屈指の女子名門校・神戸女学院中学部・高等学部は、進学実績を公表しない。「自分が何者であるか」「何がしたいのか」という気づきを促す教育を重んじるからだ。6年間の学びを通じて、生徒に芽生える変化とは。

自由と自立を促す教育方針でリーダーを育成

鈴木 歴史あるミッションスクールですが、どんなことに注力されていますか。

森谷 聖書に基づく人格形成と国際理解の精神を育むことです。人格教育の軸は学院の永久標語、愛神愛隣です。マタイによる福音書22章の3739節「心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」、これが最も重要な第1の掟です。第2の掟もこれと同じように重要な「隣人を自分のように愛しなさい」から取っています。隣人を愛するとはどういうことなのかを理解し、それを実践する「自由で自立した教養豊かな女性」になってほしいというのが教育方針であり、願いです。そのため、聖書の授業や礼拝の時間を設けています。国際理解の前提として、英語教育にも力を入れています。

鈴木 自由と自立は、リーダー教育という視点でも大切ですね。

森谷 本校の始まりはキリスト教の宣教師が1873年に創立した私塾です。当時、日本の女性の地位の低さを見て、「これではいけない」と感じたそうです。

鈴木 明治6年、まだそういう時代ですね。女子中高の魅力はどんなところにあるとお考えですか。

森谷 共学では、まだまだ男女差が語られる場面があるように感じます。女子校は女子だけですから、リーダーをするのも、それを支えるのも女子で、重いものを持つのも女子です。色々な立場や仕事を、満遍なく経験できます。卒業生は進学先などで「男子だから、女子だから」という思考に触れて若干ショックを受けるようですが、そこにひるまず積極的に行動してくれます。

礼拝で年間180人の人生哲学に触れる

鈴木 神戸女学院中高部は毎朝の全校礼拝が特徴的だと聞きます。

森谷 毎朝20分の礼拝では、週ごとに聖書の1節を暗唱して讃美歌を聞きます。現在は感染症対策のため全校生徒で歌えず、聞くだけです。そして、その日の奨励者のお話を聞きます。牧師や教員、生徒と色々な人が話すのですが、心に響くのはリーダーや委員会の長のお話です。どんな気持ちでその係を引き受けたのか、その仕事をやり遂げたことで何を得たのかを話してくれます。後輩たち、特に中学1年生はたくさんのことを学びますね。頑張ることは美しいという考え方が自然に育まれ、みんなが努力することの大切さを学びたたえ合います。本校に息づく精神は、こうして先輩から後輩へと引き継がれていきます。

鈴木 個々の努力を認め合っている。これは成長につながりそうです。

森谷 そうですね。聞くほうも、話すほうも成長できます。お話をした生徒は「自分の話はどうだったかな」と不安になるものです。6学年の生徒に向かって自分の考えを伝えるのですから。礼拝後に、聞いていた友達が「よかったよ」と抱きしめる光景も珍しくありません。毎日、学園ドラマの最終回を見ているような感動があります。

鈴木 そんな空気の中で授業が始まるのは、モチベーションになりますね。

森谷 年間約180人がお話をしてくれます。誰にでも必ず心に響くお話があるものです。この時間を通じて、一人ひとりが「自分は何者で何がしたいのか」を問うようになります

ロールモデルの存在が刺激になり大きく成長

鈴木 今の時代でいうキャリア教育を、伝統的に実践されてきたわけですか。

森谷 ええ。礼拝には卒業生が続けてお話をする卒業生シリーズもあります。また礼拝に加えて、先輩などが来てくれるキャリアガイダンスも設けています。昨年は農業に従事する人や、農場のコンサルティングを手がける先輩が来てお話をしてくれました。生徒たちは「そういう生き方もあるのか」と発見があったようです。

神戸女学院2

鈴木 なるほど。在校生のつながりはいかがですか。

森谷 中学生の新入生は入学式前にデイキャンプに参加します。そこでまず、顔見知りの先輩や同輩をつくり、安心して学校生活が始められるようになります。委員会や体育祭は縦割りです。上級生がリーダーとして下級生をリードしていきます。そこでも先輩後輩の関係ができます。校内大会や文化祭はクラスや学年の結束を高める行事です。色々な行事を通して、縦と横の関係をつくっていきます。

鈴木 縦も横も、協働する機会があるのですね。6年間でどのようなことを学んでほしいとお考えですか。

森谷 この学校で学んでほしいのは、私たちは神様に愛されている存在であること、神様を愛するように自分や隣人も愛すべき存在であるということです。そのうえで、自分には何ができるか、神様から与えられているものは何かに気づいてほしいと思います。そして、自分ができることに一生懸命に取り組み、蓄えた力を社会や隣人のために使うことができる人になってほしいと考えています。現在の社会では、高い能力や高い技術にフォーカスされがちですが、本校では引き受ける力が大切だと考えています。相手を信頼する力ともいえるでしょう。「人を信じて、自分にできないところは任せる。自分にできることは惜しみなく引き受けて全うする」ということです。将来の目標に向けて学力をつけながら、巣立つ時には、この力を備えてくれたらうれしいです。

鈴木 生徒たちの変化は小さくなさそうです。

森谷 何より保護者のかたがお子さんの変化に驚きます。家では変わった様子もないのに、学校では張り切ってリーダーをしたり活躍したりしていますから。一方で「勉強だけしていたらいいじゃないか」という発想の保護者とは、親子でぶつかることもあるようです。本校に通うと勉強だけとはいかなくなります。生徒が互いの挑戦に感化されるので、やってみたいことが出てくるのです。しかもそれは一つに限りません。

鈴木 ぜひ一例を伺ってみたいのですが。

森谷 最近だと、モルックというフィンランド発祥の投てき競技の愛好会が普及活動を頑張っていましたね。日本モルック協会の協力を得ながら大会を企画しました。参加費で得た収益を神戸市に全額寄付し「市内の小学校にモルックの道具を置いてください」とかけ合いました。小学校に配布したうえに、日程が合うところには指導に出かけました。忙しい学校生活の合間にそこまで時間を割いて大丈夫かなと思いましたが、立派にやり切っていました。神戸市の兵庫区長から感謝状をいただいたので、校内に飾っています。

鈴木 社会貢献活動にもつなげているのですね。すばらしい。

母国語のように鍛える独自の英語学習法

鈴木 注力されている英語教育は、どのように進めていますか。

森谷 70年以上前から、英語を母国語とする人がそれを習得するように学ぶ「クルーメソッド」を導入しています。

鈴木 全て英語なのですね。

森谷 中学部の3年間は英語だけで授業をします。英語圏の国の赤ちゃんのように状況や場面を通じて、英語の文の意味を「日本語を介さずそのまま理解できる」ことを目指しています。高校生では英語で議論できるようになりますね。徹底的な発音指導も本校の英語教育の特徴の一つです。この教育法で身につけた力は、数学オリンピックやワールド・スカラーズ・カップなどの国際大会で大いに生かされています。

鈴木 成果も出ていると。小学校で英語の素養がなくても問題ないのでしょうか。

森谷 まっさらな状態のほうが発音も文法も先入観なく素直に身につけることができますので安心してください。説明会でもそのようにお伝えしています。

入試に込められたメッセージを読む

鈴木 英語は入学後に磨いていけば大丈夫とのことですが、入試には社会や体育といった科目もあります。どんなことを問うのでしょう。

森谷 受験科目が多いのは大変ですが、受験には努力や挑戦が必要だと理解し、その挑戦を楽しんでほしいと思います。体育を実施するのは、頭で考えるだけではなく、体を動かしてほしいからです。社会や人の役に立つリーダーに行動力は欠かせませんから。

鈴木 リーダーには行動や挑戦心が大切だというメッセージなのですね。興味深いお話、ありがとうございました。

神戸女学院3
神戸女学院中学部・高等学部の森谷典史部長(左)と、インタビュアーを務めた朝日新聞出版『AERA with Kids』の鈴木顕編集長

神戸女学院中学部・高等学部
森谷典史部長
もりたに・のりひさ/大阪教育大学大学院を卒業後、1990年から神戸女学院中学部・高等学部の数学教諭に。2020年から現職。

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