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主体的に幅広く活動する中で真の得意分野を見つけ出す

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主体性を引き出す教育の重要性が叫ばれているが、灘中学校・灘高等学校では、創立当時から生徒の主体性を重視する教育を実践している。海保雅一校長が語る「生徒が主役の学校」、その神髄を探る。

責任を伴う自由の中で「考える習慣」を身につける

鈴木 灘といえば、文書化されたルールや制服がないことが有名です。

海保 主体性を育むには自ら考えて行動する環境が必要です。ルールで縛られた環境では、生徒は思考停止に陥ってしまいます。灘校の生徒は、校是「精力善用」「自他共栄」を指針として、個々の場面でどう行動するかを自分で判断するのです。「精力善用」とは「自らの心身の力を最も有効に活用しなさい」という教えです。好奇心・探究心を原動力に主体的に幅広く活動して自分の得意分野を見つけ出し、その資質・能力を最大限に伸ばすことが「精力善用」の体現になります。「自他共栄」は「相助相譲・自他共栄」を短くしたもので、「互いに助け合い譲り合って、自分と他者が共に栄える社会をつくりなさい」という教えです。

鈴木 学年ごとに「六つの学校」があるとも言われます。二つの校是に沿っていても、雰囲気はかなり違うのでしょうか。
 

海保 確かに、個性は出ますね。学年担任団が原則6年持ち上がりなので結束がかたく、生徒とも濃密に関わりますから。ただ絆は深まるものの、授業は真剣勝負です。教材や授業スタイルは個々の教員の裁量に委ねており、質の高い授業を行うため、皆全精力を傾けて教材研究をしています。

鈴木 なるほど。どれも個性豊かな授業ということで内容にバラつきは生じませんか。

海保 学年担任団には、国数英の教員が必ず一人含まれていて、その教員が学年の主要授業を6年間一人で担当します。分担制ではないので、授業の進度調整や副教材の統一などの無駄がなく、計画的かつ効率的でスピーディーな授業を行うことができるのです。

好奇心と探究心を伸ばすために種をまく

鈴木 灘にはどんな生徒が集うのでしょう。

海保 好奇心旺盛で探究心が強い生徒が多いですね。彼らの知的好奇心に広い範囲にわたって刺激を与え、それに応えられる学びの環境を用意しています。知的刺激に満ちた授業はもちろんのこと、多彩な部活動や生徒会活動、土曜講座、7万以上の蔵書を誇る図書館などですね。

鈴木 生徒の好奇心や探究心に驚かされたことはありますか。

海保 たくさんあります。ある中学2年生の生徒が「プログラミングの講演会で休みます」と言うので、詳しく聞いてみると講師側だったとか(笑)。中学に上がるまではパソコンに触れておらず、入学後2年でそのレベルに達したようです。

鈴木 得意なことを究めた結果ですね。

海保 はい。また別の中学2年生の生徒は、2021年度の行政書士試験において最年少となる14歳で合格しました。数学が得意なのですが、法律の条文を読むことも好きだそうで。国際科学オリンピックでも毎年複数人がメダルを獲得しますが、教員が主導することはほぼありません。 

灘2

鈴木 そうですか。入学後生徒たちはどのように変化しますか。

海保 すぐに、あれこれと興味を持ったことに取り組み始めます。やがて自分の得意分野が見えてくるのですが、どんなものでも得意分野を持っている人には一目置くという文化がありますね。

鈴木 その究めていく姿がまた刺激になりそうです。得意なことはどうやって見つけていくのでしょうか。

海保 幅広くかつ感度よく好奇心のアンテナを張り巡らせていて、感知したものに敏感に反応していますね。興味を持った分野で少し先を歩んでいる先輩、つまりロールモデルとの出会いが、また大きな刺激になります。

鈴木 キャリア教育も充実させているのでしょうか。 

海保 20年ほど前から実施している土曜講座は、総合的な探究の時間の一環として実施していますが、キャリア教育という側面もあります。卒業生を中心とする研究者、政治家、医療関係者、法曹関係者、起業家、芸術家など各界で活躍するかたを講師として招き、知的刺激に満ちた講義をしていただいています。

鈴木 こうした経験が順位をつける競争意識とは違う、自分だけの道を究めることにつながっていくと。

海保 互いの得意分野を認めて活用し合えば、それが「自他共栄」の実践になります。

SDGsを軸にグローバルな視野で自他共栄を考える

鈴木 ちなみに、海保校長が自ら受け持つSDGsの授業もその一環ですか。

海保 「自他共栄」の精神は「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念にも通じるものです。また、同一基準で評価された世界各国のSDGs達成度を見て、自国の強みや課題を共に学びます。

鈴木 共にというのがこだわりでしょうか。

海保 生徒たちが未来に希望を抱くことができる「自他共栄」の社会を築くのは、むしろ今の大人の責任ですからね。

教育環境の整備で生徒のアイデアが生きる

鈴木 コロナ禍の前後で学習環境に変化はありましたか。

海保 校内のICT化が加速しました。高速大容量通信網の整備、中学生への11台端末の配備が完了し、全教室に黒板投影型高輝度プロジェクターも設置しました。新型コロナ感染症関連の欠席者が出ても、授業の配信がスムーズに行えるようになりましたね。

鈴木 ICT化によって授業の幅も広がったのではないでしょうか。

海保 黒板中心の授業をしていた時とは異なり、教材の提示や課題の受け渡しをする手段が多様になりましたね。校内の通信網は生徒も活用しています。例えば、今年の生徒会中央委員選挙はオンライン投票で実施されました。

求める能力と受験生へのメッセージ

鈴木 入試についても伺いたいのですが、どんなことを問うのでしょう。

海保 入試問題そのものが受験生へのメッセージなのですが、例えば国語は1日目、2日目と2回あります。1日目には語句の知識やその運用能力を問う問題が、2日目には論理的な読解力や文章力を問う問題が出題されます。

鈴木 では、どんな人に来てほしいですか。「これをすべきだ」ということも含めて紹介していただけたらと。

海保 豊かな好奇心と探究心を原動力として主体的に学び、自らを向上させる。そういう意識を持ったお子さんですね。低学年のお子さんには、受験勉強よりも自然体験や地域活動、家庭のお手伝い、音楽やスポーツといった幅広い経験を積んでいただきたいです。それらが統合されて汎用的な能力に高められていくと考えています。

鈴木 対策すべきことよりも、狭い意味ではない早期教育が必要ということですね。勉強にも違いがありますか。

海保 そう思います。勉強法を見つけるのは、なかなか大変なことです。スポーツや楽器の練習などをしたことがあると上達のコツをつかみやすいように思います。

鈴木 灘を知るたくさんのヒントがありました。ありがとうございました。

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灘中学校・灘高等学校の海保雅一校長(右)と、インタビュアーを務めた朝日新聞出版『AERA with Kids』の鈴木顕編集長

灘中学校・灘高等学校
海保雅一校長
かいほ・まさかず/京都大学経済学部を卒業後、1994年に灘中学校・灘高等学校の英語科教諭に。教頭を経て20224月から現職。

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