これからの社会の担い手を育成するキーワードとも言える「主体性を引き出す教育」。なぜ今主体性が重視されるのか。また、どのようなことを取り入れれば育んでいけるのか。SAPIX YOZEMI GROUP共同代表で、代々木ゼミナール副理事長も務める髙宮敏郎氏に聞いた。

教育における「主体性」は、とても広い意味を持ちます。強い意志でやり抜く根気・計画性・行動力などが挙げられますが、いずれも教え込んで身につくものではありません。これらを家庭で育むにはまず、お子さんが「何かを選ぶ機会」を、たくさんつくっていただきたいと思います。夕食の献立でも、休日の過ごし方でもいいでしょう。小さな選択の積み重ねが大切です。問いかける際にはぜひ、その理由も掘り下げてみてください。意図をもって選ぶことを習慣にしていただきたいですね。今は変化の時代であり、情報過多の時代です。何に対して時間を割きたいのか、自分をどのように高めていきたいのか。その軸が定まらない人は少なくありません。自分で考えて決断する力は、社会に出てからも求められるものです。子どもの頃から意図ある選択を積み重ねていくことで、着実に身についていきます。

中高一貫のトップスクールには、個々に考え、どこまでも探究していくという文化が息づいています。自分が何者かを自分自身に問いかけ、人に負けないと思えるものを持つためのたくさんの仕掛けがあります。変化の時代を生き抜く上で必要なことを早い段階で身につけられるからこそ、幅広い分野でリーダーを輩出しているのですね。

6年間で主体性が自然に養われる理由の一つが、濃密かつ多様な人間関係だと言えます。同学年や先輩、教員、豊富なキャリア教育プログラムで出会うロールモデルたちの取り組みに感化されるのです。身近な存在あるいは各分野のトップランナーの思いに触れるうちに、例えば「頑張ることが美しい」「頑張ることは当たり前」というような前向きな共通意識が芽生え、高め合っていくことができます。学校も気づきを促すため、様々な工夫を凝らしていますね。志望校を決める際には合格実績などの数字だけではなく、多様な人間関係を育んだり、生徒の好奇心・探究心を刺激したりするための行事やプログラムなど学校独自の取り組みにも注目したいものです。

主体性を育む過程では、これからの時代に欠かせない「多様性を尊ぶ」という思考も得ることができます。当グループも集団授業の中で、長らく主体性と多様性を重視してきました。「授業の中で意見が言える」「仲間の意見に触発される」、そんな経験によって一人ひとりが大きく成長します。受験を勝ち抜く学力はもちろんですが、その先の人生にも生きる学び方や考え方を伝えていくことが、私たちの教育の理想です。(談)

SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表
代々木ゼミナール副理事長
髙宮敏郎氏

たかみや・としろう/1974年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て、20004月、学校法人高宮学園に入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学、教育学博士号(大学経営)取得。同学園の財務統括責任者を経て、09年から現職。

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