1世紀以上の歴史を持つ少人数教育で、実学を重視しながらも学生一人ひとりに“こころが通う”サポートを実践している高千穂大学。私学として日本で最初の高等商業学校を前身とし、商学・経営学・人間科学を通して社会に有為な人材を育成してきました。2023(令和5)年には学園創立120周年を迎えます。その歴史を深く知る藤井耐・高千穂学園理事長に、伝統の教育システムと未来を見据えた進化について語ってもらいました。
■学生一人ひとりを家族のように支える
――高千穂大学のルーツについて教えてください。
本学の歴史は1903(明治36)年、創立者の川田鐵彌(てつや)先生が、30歳で高千穂小学校を開校したことに始まります。その後、1907(明治40)年に幼稚園、1909(明治42)年に中学校、そして1914年(大正3年)に現在の高千穂大学の前身である高千穂高等商業学校を開校致しました。
若い川田先生を支えたのが、同じ土佐藩出身で明治維新にもかかわられた谷干城(かんじょう)先生や、新1万円札でご存じの渋沢栄一先生など、当時の名士たちです。キャンパスには渋沢先生の自筆による貴重な石碑も残されています。
来年は学園創立120周年と川田先生の生誕150周年を迎えます。教員や職員の方々を含めて、川田先生から受け継いできた哲学をもう一度確認する場を設けることができればと考えております。
――教育システムとしては、少人数教育が大きな魅力です。
少人数教育は開学以来の伝統で、高千穂大学の教育の原点でもあります。1年次は10~15人程度で構成される「ゼミⅠ」が必須で、2年次からの専門ゼミに向けてスタディスキルや能動的かつ自主的・探求的学習方法による研究の基礎を身につけます。担当教員は学生と密接に関わり、一人ひとりの成長と向き合っていくのも特徴です。
学部学科は2001(平成13)年4月に従来の商学部に加え、経営学部を新設。大学名も高千穂商科大学から高千穂大学へと改め、より実践的な実学教育が可能となるコース制を全学に導入しました。2007(平成19)年には人間科学部を開設し、定員は1学年全体で550人となりましたが、小規模大学として川田文化の一つである少人数教育を引き継いでいます。
――「こころが通う大学」「学生をあたたかく支える我が家のような場所」と表現されているように、家族的な雰囲気も特徴の一つ。具体的には、就職を含めて学生をどうサポートされていますか?
学生一人ひとりを家族のように支えていく「家族主義的共同体」という学園文化に基づいた教育が、高千穂大学には根付いています。創立当初は川田先生と寮生が寝食を共にして学んでいたのですが、その家族主義を今日的に実現するために、理事会・教授会・事務局・同窓会・父母の会から成る五位一体による学生支援システムを構築しています。
学生の就職についても、この家族主義をもって一人ひとりに寄り添ったサポートを実施しています。1年次からキャリア形成を支援し、3年次では全学生に対して教職員が1対1で進路相談の面談を行い、学生がベストな選択ができるように粘り強くサポートしていきます。きめ細かい就職支援体制により、2021年度卒業生は就職を希望する434人のうち421人の就職が決まり、就職率はコロナ禍にあっても97%を達成致しました。
■「常に半歩先立つ進歩性」を体現化する人材を育成
――高千穂大学の教育理念について、あらためてお聞かせください。
高千穂の建学の精神は、川田先生が著した「朝礼訓話集」に7つの訓話としてまとめられています。それを今日の学生の皆さんに理解していただくため、1981(昭和56)年に改めたのが、学風の指針「常に半歩先立つ進歩性」と、3つの「学風の目標」です。
「半歩」とは、自分に与えられた役割がどのようなものであろうと、その役割を真摯(しんし)に遂行していくという、不断なる行動の継続性。「進歩性」とは、不確実な社会にあっても、今日まで培われてきた理論や知識を基礎にして現象を客観的に捉えると同時に、その原因や法則性を分析し、将来を展望できるようになることを意味します。
この学風の指針が示す行動原理を、私は自らの授業や、入学式・卒業式など事あるごとに学生たちへ伝えて参りました。教員や職員の方々にも日常の授業や職務を通じて、この川田哲学を伝えていただきたいと思っております。
――学生たちには大学での学びを通じて、どんな人間を目指してほしいですか?
学風の指針を具現化するために、豊かな人間性・人格形成を示すものとして、3つの学風の目標があります。(1)「気概ある常識人」(2)「偏らない自由人」(3)「平和的国際人」です。
最初の「気概ある常識人」とは、 健全な社会人としての学識やモラルを身につけ、他者と協調しながら自らの役割を遂行できる人間。特に、正直さと清廉さを常に見失わず、誤りがあれば、それを是正する勇気を持つ人間を示しています。
「偏らない自由人」とは、社会や人間を常に客観的に観察し、中庸な思想をもって洞察すると同時に、真の自由を理解して行動できる人間ということです。又、「平和的国際人」とは、他者に対する知的行為としての配慮行動と、心的行為である思いやりを兼ね備えて、他者と共に真の平和を追求する国際感覚を備えた人格形成を意味しています。
高千穂の学生は、将来、どんな職業であろうが、どんな組織にいようが、「常に半歩」すなわち、その時その時を真剣に生きていただきたい。それこそが、川田哲学の神髄であり、人間の普遍的な真理であると思います。
■専任教員がアドバイザーとなり学生生活をサポート
――学生たちの強みや気質について教えてください。
他大学の学生と大きな差異はないものと思います。ただし、特筆すべき点があるとすれば、非常に素直な学生が多いということです。歴代の理事長や学長からも、卒業生が社会に出てからも素直であるとの評価を受けていると聞いております。高千穂の学生の長所であると言えるでしょう。
一方で別の角度から見ると、明確な目標を持ちにくい現代の若者にとり、素直さだけでは精神的な強さの欠如につながりかねません。多くの大学で退学者等の増加は1つの課題ですが、一人ひとりの学生を大事にする家族主義の本学では、学生が抱える様々な課題の早期発見とその対応を図るため、専任教員による「アドバイザー制度」により学生生活をサポートしています。
――教員によるサポート体制とは、具体的にはどのようなものですか?
入学から卒業まで、学生全員に対し、専任教員がアドバイザーとしての機能を有し(例えば、ゼミⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ)、学問はもちろん、進路や生活などについての相談にも対応致します。学習に対する意識も高めながら、各学生の目的実現に向けたサポートを行っています。
私自身、教員を約40年務めさせて頂きましたが、私のゼミ生から除籍や退学をした学生がほとんどいないこと(2名だったと思います)は喜びでもあります。学生への面倒見の良さという、この伝統をこれからも大切にしてほしいと思っています。
高千穂大学
1903(明治36)年の学園創立以来、「人間形成」に重点をおいた私学観と、「実学教育」「国際教育」は少人数数教育によって実現可能であるとした教育観に基づいた教育を実践。商学部・経営学部・人間科学部の3学部で、実学を重視した少人数ゼミやアクティブラーニングを行っている。
藤井耐(ふじい・たえる)
1949(昭和24)年静岡県生まれ。72年に高千穂商科大学商学部卒、74年明治大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。高千穂商科大学助手、助教授などを経て92年に教授。2001(平成13)年6月より08年3月まで学長、07年6月より理事長。専門分野は経営組織論、経営管理論。
■高千穂大学 オープンキャンパス情報
【日程】
2022年8月7日(日)、8月21日(日)、9月18日(日)、10月16日(日)、11月5日(土)、12月4日(日)
【会場】
高千穂大学 杉並キャンパス(東京都杉並区大宮2丁目19-1)
事前登録制。新型コロナウイルスの感染状況により変更となる可能性がございます。
詳しくは受験生向けサイト(https://www.takachiho.jp/admission.html)をご覧ください。