激しく変化し先の見えない時代に、自ら課題を見出し、未来を切り開いていく。教育界では今、そのような人物をいかに育むかが、大きな課題となっています。「その大前提となるのが多様性」。 そう指摘するのは、社会学者の上野千鶴子さん。女性学のパイオニアである上野さんに、教育における多様性の重要性について伺います。

問いとは自ら見出すもの

髙宮 上野先生がかつて東大入学式の祝辞でおっしゃっていたように、ダイバーシティー(多様性)は教育界の大きな課題です。最近の入試問題にも、多様性を題材にしたものが増えています。

上野 今、ダイバーシティーやSDGsは教育界の流行になっています。総合学習のテーマにもよく取り上げられていますね。でもそこでの子どもたちの発表を見ると、ありものの問いに対し、ネットなどからありものの知識を集めて器用にまとめただけ、といったものが多いのが気になります。

髙宮 自分ごと化していない、与えられた問いを解いているだけ、といった面は確かにあるかもしれません。

上野 問いは本来、与えられるものではなく、自ら見出すものです。現代は予測できないことが次々と起き、お手本はどこにもありません。正解のない世界のなかで、自ら課題を見つけ、未来を切り開いていく。そのような人間を育てなくてはならないのですが、今の教育には残念ながらそれができていません。

異質な存在と触れ合う機会を

髙宮 どうしたら自ら課題を見つけ、問いを立てられる子どもを育てられるのでしょうか。

上野 そこは実際、難しいところです。問いの解き方は教えられても、問いの立て方はなかなか教えられませんからね。結局、問いはその人の中からしか生まれないものだからです。ただなるべく異質なものと触れる機会を与えてあげることが、大事だと思います。例えば外国で異文化に触れたり、高齢者や障がい者と日常的につきあったりする。そのような体験のなかで自然と湧き立つ違和感が、その人の問いにつながるのではないでしょうか。

髙宮 それこそがまさにダイバーシティーですね。

上野 そうなんです。多様性がなぜ必要なのかといえば、新しい価値は異なるものの摩擦から生まれるからです。情報工学では、情報とはノイズが転化したものだと言われています。ノイズが発生しない同質的な組織からは、価値ある情報も発生しません。

私が大学に女性を増やすべきだと言うのは、多様性のない組織からは新しい知が生まれないからです。同質的な社会からは新しいものが生まれにくく、やがて社会は行き詰まっていくでしょう。

多様性とはノイズ 弱者を尊重すること

髙宮 さすがに新卒一括採用、年功序列といった昭和的なモデルは見直しが迫られています。私は中学高校と男子校で育ちました。その後、アメリカの大学に留学し、多様な価値観の人と触れ合いました。さらに結婚し、子どもを持ったことで自分自身、何かが大きく変わった気がします。

上野 子どもは大人にとって最大のノイズですからね。大人が思いつかない行動をし、絶対に大人の思い通りに育たないのが子どもです。

髙宮 確かに小さな子どもの行動は予測不可能です(笑)。そんな子どもを相手にすることは、ときには仕事より大変な面もありますね。

上野 今の教育は、そのような子どもを大人社会が求める均質な人材に育てるために管理し、競争させています。日本の女性活用の風潮も、男社会においては本来、ノイズである女性を、男性と同じように扱い、働かせようとしている点が問題です。「わきまえる女」はノイズを立てないでしょう。

髙宮 先生の祝辞にあった、「フェミニズムは女も男のように振る舞いたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」との言葉は目からうろこでした。

上野 弱者とはまさにノイズなんです。強さを測る尺度は一元的ですが、弱さは一人ひとり違います。その多様性のなかにこそ未来の可能性があるのです。だから弱者を尊重することが、社会にとって大事なんですね。でも今は自己責任論が強く、弱音を吐きにくい社会です。家庭と教育現場は、子どもが安心して弱音を吐ける場になっているでしょうか。そうであってほしいと願っています。

髙宮 きっとそのような環境こそが、子どもが自らの問いを見つけ、自分らしく成長していける場所なんですね。本日は大変示唆に富む話を、ありがとうございました。

たかみや・としろう
 1997年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て2000年学校法人高宮学園に。米ペンシルバニア大学で大学経営学を学び、教育学博士号を取得。09年から副理事長。現在、SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する株式会社日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。

うえの・ちづこ 
富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。1993年東京大学文学部助教授、1995年から2011年まで東京大学大学院人文社会系研究科教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学、ジェンダー研究のパイオニアであり、高齢者の介護とケアについても研究。

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