今年の8月は例年になく雨が多く、大雨による洪水や土砂崩れといった災害に見舞われた地域も多くありました。被災地の皆様には心よりお見舞い申し上げます。また、東京オリンピック・パラリンピックはほぼ無観客での実施となりましたが、なんとか開催することができました。一方で変異した感染力の強い新型コロナウイルスのデルタ株の影響で、世界的に感染が拡大し、日本国内でも医療危機といった事態に直面し、引き続き強い感染対策が求められています。今回のデルタ株は高校生、受験生の皆さんといった若い世代での感染も拡大していますから、今までにも増して最新の注意を払ってください。

さて、9月は受験生には2022年度大学入学共通テスト(以下「共通テスト」)の受験案内が配布され、出願の準備も始めなくてはならない時期です。そのため、改めて入試を意識する人も多いでしょう。今回は最初に2022年度入試展望を、次に学習には最も適した季節といわれる秋に注意すべき点についてまとめてみました。

2022年度入試は受験人口減少でチャンスの年!

今春の2021年度入試をまとめると「3C入試」だったといえます。つまり、コロナ禍の中で限定的な情報しか得られず、Compact(地域的にもレベル的にも小さくまとまった)、Conservative(大きな入試変化を嫌った保守的な志望校選択)、Convenience(受験機会や受験料などで受験生に利便性のある大学への人気)の3つのキーワードが志望動向に大きな影響を与えました。

この結果、経済環境の悪化の中での国公立大志向もあったことで国公立大学の志願者数は約3%の減少にとどまりましたが、1人あたりの併願校数減少の影響を強く受けた私立大学の志願者数は14%もの大幅減少となり、受験生にとっては大学合格への間口が大きく広がった入試結果でした。

2022年度入試では、高校卒業生の人数が前年度から約2%とわずかですが減少し、100万人を下回る見通しです。これに既卒生の減少を合わせると2021年度入試よりもさらに「間口」が広がることが予想されます。今後のコロナ禍の動向次第では、「3C入試」がさらに強調されることも予想されます。つまり、2022年度入試ではいかに強気な志望を維持できるかが大きなポイントです。言い換えれば、しっかりと第一志望を見据えた対策ができる受験生には大きなチャンスの年度といえます。「第一志望は、ゆずれない。」という気持ちを忘れないことが、いい結果につながると信じて、秋以降も頑張っていきましょう。

最後に、共通テストについてですが、2021年度入試では現役志願者数は2020年度からほとんど減少しませんでした。これは、コロナ禍の中で概ね在籍高校のある都道府県内の会場での受験ができる共通テストに対して、コロナ禍での厳しい移動制限が加えられることへの不安から、「保険」の意味合いでの出願があったことが影響しました。しかしながら、欠席率は約1割と、前年までのセンター試験では見られなかったほどの高い割合となり、最終的には共通テスト受験を断念した受験生が多く出ました。

この結果から、2022年度入試では出願時点から共通テスト出願者数は絞り込まれて減少するのではないかという予想があります。9月上旬時点で、コロナ禍の影響がどれくらい続くかは依然、予断を許さない状況ですが、「慣れ」からか、前年度と比較するとコロナ禍への対応に緩んでいる部分が見られます。一部の私立大学では、既に一般選抜での感染症罹患者の追試験として、共通テストの成績を利用すると発表しています。私立大学専願であっても、共通テストに出願し受験することは、コロナ禍の入試において大きな感染症対策となることを理解して、積極的に受験してほしいと思います。

秋に要注意! スランプの克服法

夏期休暇前には「よし! 夏の頑張りで一気に上昇気流に乗るぞ!」と意欲満々だったのに、夏期休暇中の学習が「計画の半分もこなせなかった」、「苦手科目の克服が進まなかった」などと焦りを感じている人も多いのではないでしょうか。しかし、いつまでも夏の反省ばかりしていても始まりません。気持ちを切り替えて前進することが大切です。

さて、多くの受験生は、これから高校や予備校で9月~12月までは毎月1、2回は模試を受験していくことになると思います。受験した模試の結果が、志望大学の目標ラインを上回っていれば自信につながり、ますますやる気も出てくることでしょう。

逆に目標ラインに届かないと、夏の過ごし方への後悔が大きくなり、焦りや自信喪失を生むことになります。特に、現役生にとっては出版社系主催の模試でも既卒生の参加が増えるので、偏差値は厳しい数字になりがちです。こうして、夏に頑張ったにもかかわらず秋の最初の模試で結果が伴わないと、気持ちが大きく落ち込んでしまうこともあります。これが、俗にいう「スランプ」です。そして、このスランプが最も起こりやすいのが、秋なのです。

スランプを脱出するには、どうすれば良いのでしょうか。「これからは応用力養成のために、問題集や過去問で演習をどんどん進めたい」と考えている人も多いでしょう。でも成績がなかなか上がらない教科・科目こそ、遠回りに見えても思い切って教科書や参考書で基本事項を再確認することが大切です。特に数学や理科といった理系科目では段階を踏んで理解を高めていくことが必要なため、それを怠るといくら時間をかけても成果が出ないものです。焦らずにもう一度あやふやな点がないように完成度をアップさせましょう。

そうはいっても、時間は無限にあるものではありません。自分一人で悩むのではなく、高校や予備校の先生に適切な質問を行うことで、合理的に学習を進めましょう。「聞くは一時(いっとき)の恥、聞かぬは一生の恥」ということわざを知っていますか。「今頃こんなことを質問したら恥ずかしい」といった苦手箇所こそ、入試本番での命取りになる箇所だと肝に銘じて、積極的に質問をすることが大事です。

焦りからスランプになって、何も手がつかないといった精神状態になることもあります。このような場合には、得意科目と不得意科目を組み合わせて、まずは得意科目の学習から始めて達成感を得て、次に勉強のペースが戻ってきたところで不得意科目に取り掛かるといった工夫も必要です。

また、感染症対策がきちんとされている高校や予備校の図書室や自習室などをうまく活用することをお勧めします。周囲が同じように学習している環境に自分を置くことで、あれこれ悩むより、まずは学習に取り掛かるという気持ちに切り替えさせてくれる効果があります。学校や予備校にいれば、友人との何気ない会話を交わすことで気分転換をはかることも可能です。

現役生の成績の伸び方

現役生の成績の伸び方

実は、スランプは多くの受験生にやってくるものなのです。なぜなら、学習の積み重ねと成績の上昇との関係は、上の図にあるように、1次関数のグラフのように正比例していくものではなく、学習の積み重ねに対する成績の上昇は、階段状にアップしていくものなのです。つまり、いくら努力していても成績にはほとんど変化が現れない期間があります。これが、スランプの実態なのです。模試の成績で見ると夏に努力した成果は11月頃に、秋に頑張った成果は12月半ばの共通テストプレテストあたりでやっと出てくるといったタイムラグがあることを覚えておきましょう。

こういった状況を初めて経験する現役生には、スランプの期間が長く、非常に苦しく感じることでしょう。すると、「志望校のレベルダウン」や「入試教科・科目の少ない入試方式への志望変更」で、目先の困難から逃げようという人もいるかもしれません。一見すると負担が軽くなり合格への道のりが緩やかになった気がしますが、これから成果が出てくるという前に、学習のスピードを減速させてしまう原因となります。そして、ますます成果が出る時期を遅らせてしまうという悪循環に陥りがちです。

また、保護者の皆様も受験生本人のことを考えて、志望校のレベルダウンや安全校の確保の話題を出したくなる場合もあると思います。しかし、保護者の皆様こそが今が我慢の時期と考えて、受験生に対しては志望校をレベルダウンさせることなく、一緒になって第一志望へ向かって進んでいくのだという強い気持ちが大事です。

受験人口(大学・短大への実志願者数)は保護者の皆様が大学受験にチャレンジした90年代と比較すると5割強まで減少しています。最初に触れたように、2022年度入試はコロナ禍の影響が大きく、「間口」が広がっています。つまり、例年以上に努力が報われる環境なのですから、まだまだあきらめる必要はないことをご理解いただき、受験生のフォローをお願いします。