コロナ禍がICT教育を加速させる要因に
高橋 学校教育のICT 活用において大きなポイントは、GIGAスクール構想により機器が整備されるというだけではなく、「子どもも先生もICT環境に慣れていく」というところにあると思います。学校現場を見て感じるのは、初めはICT機器に対して戸惑うこともあるのですが、使っていくうちに授業のやり方が変わっていき、子どもたちの創意工夫もだんだんと引き出されていくことです。私たちが想像しないような世界が、この先待っているのではないでしょうか。
鈴村 ICT教育が本格的になっていくためには、ハードウエアだけでなく、ソフトウエアの面や、教える側、あるいは教えられる側のスキルが上がっていくことが大事だと考えています。そういう意味では、今回のコロナ禍でリモート化やデジタル化を余儀なくされ、否応なくそのような環境に慣れなくてはいけない状況になっているのは、ICT教育が加速する一つの大きなチャンスなのかなと感じています。
高橋 そうですね。特に今の大学生は授業の多くがリモートになっていますが、逆に、そういう環境に慣れた世代こそが新しいチャレンジや創造的なアイデアを発揮してくれるのではないかと思っています。
ICT機器は社会と同じような仕組みの中で活用していく
鈴村 ICT教育のメリットのひとつは、一人ひとりに合わせた学習ができるようになることではないでしょうか。私たちも今、学校現場で多様な対応ができるように取り組みを進めているところです。
高橋 学校は社会に出て活躍するための準備段階ですので、社会と同じような仕組みの中で学習することが大切です。そのために、メールやチャットで連絡したり、プロジェクターに大きく映してプレゼンテーションしたり、必要があれば印刷したりと、大人が社会でやっているようなことを学校でも自在にできるようになればいいと思います。その第一歩として、ICT機器を上手く活用していくことが重要になってきます。
鈴村 私たちのICT機器が、学校にどんなメリットをご提供できるかを考えた時、それは「情報」と「コミュニケーション」の量と質の向上ではないかと思っています。例えばプロジェクターがあれば、大画面にたくさんの情報をカラフルな画像で映して、みんなで共有することができます。書画カメラのように、リアルなアナログコンテンツを随時取り込みながら、デジタルとアナログをしっかり融合させて、学びの質を高めるサポートもできます。非常に高速で、カラーが鮮やかに出るプリンター複合機もありますので、子どもたちの成果物を印刷したり、先生たちが授業で使いたいコンテンツをカラーで配ったりもできます。
プリンター複合機が身近にあることにより学校現場を変革
高橋 私はICTの学校での普及というテーマで研究をしているのですが、先生にとって便利なICT機器は何かと考えた時に、以前はプロジェクターや書画カメラが挙がったのですが、今は「プリンター複合機」ではないかと思っています。それは、職員室や印刷室まで行かなければいけない印刷業務が生じても、もし教室にプリントできる環境があれば、先生や子どもたちに大きなメリットがあるのではないかと考えるからです。そこで「学校プリンター活用実践研究会」を立ち上げ、プリンター複合機を小中学校の教室や廊下に常設することによって生じる変化や効果についての研究をしています。
鈴村 エプソン販売も「学校プリンター活用実践研究会」の研究に協力させていただいております。私たちができるのは機器を通じて、子どもたちの学びの質を高めたり、先生たちの働き方を良くしたり、業務の生産性を向上させることです。研究会への協力を通して、そういった学校教育への貢献ができると考えております。
高橋 この研究を通じて分かったことは、プリンター複合機が身近にあることで、子どもたちの発想がどんどん変わり、学習効果が高まったということです。また、先生たちは授業をしながら教室でプリントができるので、休み時間などに印刷室に行く必要がなくなり、業務の負担も大きく軽減しました。一番の効果は、先生や子どもたちのマインドセットが変わったことでしょうか。プリント、スキャン、コピーが学校生活の中に溶け込んでいるようです。子どもたちが自ら印刷をして、掲示物を作り、先生の仕事を減らしたという例もあります。
鈴村 先生たちから「カラーでいろいろなことをやりたい」という話をよく聞きます。
高橋 例えば理科の問題で「どちらが玄武岩で、どちらが花崗(かこう)岩ですか」という問いは、モノクロでは分かりにくいですよね。だったらカラーで印刷して、玄武岩と花崗岩の写真を載せて出題した方が分かりやすい。こういう小さい部分でも、カラーでの学習効果は変わっていくのではないでしょうか。一つひとつは小さい効果かもしれませんが、教室にプリンター複合機が常設され毎日使えるようになると、それが積み重なり、大きな変化になるのではと感じています。
鈴村 学校教育、特にICT教育は「創造力を豊かに育む」ことが重要なポイントだと考えているのですが、創造力を育む教育の中で、さまざまなものが「カラーであること」は最低限必要な構成要素ではないかと思います。
高橋 たしかに、カラー印刷が、子どもたちの発想をどんどん広げていくと感じますね。
デジタルとアナログを結ぶプリンター複合機
高橋 学校の勉強は、インプットとアウトプットの繰り返しではないでしょうか。今回のGIGAスクール構想ではコンピューター機器が整いますが、それは情報を入手する、インプットする手段です。インプットした情報をアウトプットして保護者や先生にも分かるように伝えたいと思う時には、カラーのプリントが最適だと思います。
鈴村 プリンター複合機には、プリンティングやスキャニングの機能があるので、そのテクノロジーを上手く組み合わせれば、子どもに合わせた学びの方法、教材の提供の仕方などをカスタマイズすることもできると考えています。
高橋 そういった面では、複合機、特にスキャンというのもポイントだと思います。例えば、子どもが書いたレポートは、通常はお返しするしかないですよね。でもスキャンをして、クラウドのフォルダに保存しておくと、来年、同じ勉強をする子どもたちがそれを見て参考にすることができ、発展的な学習に繋がります。さまざまな学習活動をポートフォリオとしてまとめ、学習の成果や振り返りとして活用していこうという時に、その数は膨大なのでデジタル管理していかなくてはいけない。そんな時に実物をデジタルにしていく道具として、スキャナー機器があると便利です。そういう意味で、プリンター複合機はデジタルとアナログの行き来を非常に簡単にする機械だと思いますね。
鈴村 スキャナーの利活用といえば、AIが普及してくれば、これからテストの自動採点もどんどん進化してくるのではないでしょうか。プリンター複合機と、さまざまなソフトウエアとの組み合わせもどんどん広がっていくと感じていますし、メーカーとしては、新時代の教育への対応をしっかりやっていかなければいけないと考えています。
ICT教育をサポートする「アカデミックプラン」
鈴村 私たちには、学校で印刷してもらうものは全部カラーにしたいという思いがあります。そこで、カラープリントを気兼ねなく行える「アカデミックプラン」という学校向けのサービスを提供しています。インクジェット技術という、カラープリントを比較的低コストで行えるテクノロジーを駆使するなど、企業努力を重ね、できるだけ予算がかからない低価格のプランを実現いたしました。
高橋 印刷のコストが安くなったというお話を聞いて、「これで先生たちがやりたいことがやれるようになる」と思いました。一昔前のプリンターや複合機のイメージとは全く違うものが、今はあるんですね。
鈴村 そうですね。私たちが学校に向けてさまざまな活動をする時に使うキーワードが「学校現場を笑顔にしたい」です。「アカデミックプラン」を利用して、今まで学校の予算でカラー印刷できなかったものができるようになった。それにより、子どもたちに伝えたかったことが、よく伝わるようになったと先生方に喜んでいただいております。また子どもたちも、今までモノクロだったプリントがカラーになり、表情が明るくなったという話も聞きます。「みんなが笑顔になる」ということは学校を良くすることです。カラープリントを一番喜んでいただけるのは学校なんだと改めて感じました。
高橋 好きな時に、好きなように、好きなことができるっていう意味で、楽で便利というのがICTのメリットです。プリンターや複合機が果たさなければいけない役割も、それに近いものがあります。これを「アカデミックプラン」は実現してくれると思います。これからの時代、先生も子どもたちも、ニーズや、やりたいことが多様になってきます。それに対応するICT環境、特にプリンター複合機が果たす役割は、ますます大きくなるのではと考えています。
鈴村 令和という時代になり、デジタル化がより叫ばれ、学校の現場もGIGAスクール構想という形で大きく変わってきています。新しい時代がくる時に、そのお手伝いを私たちも一緒にさせていただけると考えると、すごくワクワクしています。
高橋 純(たかはし・じゅん)/東京学芸大学教育学部・准教授 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。2020年から、独立行政法人教職員支援機構客員フェローも務める。
鈴村 文徳(すずむら・ふみのり)/1990年、エプソン販売(株)入社。プロダクトマーケティング部長、BP MD部長、取締役、取締役 販売推進本部長、取締役 スマートチャージSBU本部長などを経て、2019年4月、現職に就任。
もちろん両面印刷も自動