アドビが開催した「ハローキティと一緒にHello! SDGsクリエイティブアイデアコンテスト」。持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)をテーマに、デジタルツールを使って制作されたアイデア作品を小中高校・大学等の児童・生徒・学生から募り、この度、優秀賞の発表が行われた。

同コンテストで監修を務めた神田外語大学の石井雅章准教授(写真左)に、今回のコンテストの成果と、これからの時代に必要とされる学びやスキルについてインタビュー。また、アドビのマーケティング本部 教育市場部 小池晴子部長(同右)に、アドビが教育分野で目指す貢献についても話をうかがった。

先生と子どもたちが一緒になって学んでいく

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PBL(問題解決型学習)への取り組みやICT教育の推進などで、大きな変革期を迎えている日本の教育。「デジタルツールの活用が、子どもたちの“創造的問題解決能力”の向上につながる」と石井雅章准教授は語る。

──教育現場の現状について、どうお考えですか?

現代社会では、容易にはこたえの出せない問題が日々起きています。これまでの知識や経験だけでは対応できない課題にどう向き合っていけばいいのか。そこで求められているのが創造的な問題解決能力です。

教育現場でも、今までは先生が知識を授ける一方通行の教育がどちらかというと主流でしたが、これからは先生をはじめとした大人でもこたえがよく分からないような問いに立ち向かうことが求められています。

そのために、子どもたちが自らこたえを導き出すような学びへのシフトが必要ですし、先生も一緒になって学んでいくという姿勢が不可欠です。

──授業のスタイルも変わっていくのでしょうか?

文部科学省が急ピッチで推進している「GIGAスクール構想」によって1人1台デバイス(PCやタブレット)が実現していけば、学びの環境は変わっていくはずです。しかし、せっかくの1人1台環境でも、先生の指示に従って一斉に操作をするような授業をしてはまったく意味がありません。

私は大学でプログラミングの科目等を担当していますが、私の指示に従って学生が一斉にツールを動かすような形式の授業はほとんどやりません。それよりも毎回の授業目的に合わせて適度なレベルのゴールを提示し、学生たちにどうやったらそのゴールに辿り着くのか、イメージを思い描いてもらうようにしています。

そうすれば、学生はツールをどうやって使ったらいいか、もっと良い方法はないか、など自ら調べるようになります。それでも分からないことがあった時や、やってみたんだけど思い通りの結果にならなかった時に、一緒に調べるなり、調べ方のアドバイスをするなりしています。

これは一つの例にすぎませんが、これからは、教員も生徒や学生と一緒に手を動かしたり試したりしながら、チャレンジして一緒に学んでいく時代になっていくと思います。

デジタルツールは創造的な問題解決能力を伸ばす

──デジタルツールは、教育にどのようにプラスになるとお考えですか?

デジタルツールやICTの活用は、創造的な問題解決能力の育成に非常に有効だと考えています。その理由は大きく2つあります。

1つは、実際に足を運んだり、触れてみたりしないと分からない情報にアクセスできる点。物理的に見ることが難しい角度から観察してみたり、実際には動かすことができないものを動かしてみたりすることで、物事の構造を多面的に捉え、問題の背景が理解しやすくなります。

もう1つは、アイデアを多彩に表現できる点。子どもはアイデアを自由に思い浮かべますが、それを言葉だけで表現するのは難しい。でも、絵や音、動画、3Dなどの表現方法と組み合わせれば、自身が思い描いていることを存分に表現でき、他者と共有する可能性が格段に上がるでしょう。

──創造的問題解決能力の向上には、デジタルツールの活用が有効なんですね。

こたえがないような課題に向き合う場合は、なにかしらの根拠をもとに仮説を立てて、試してみることが大事です。そんな時こそ、デジタルツールは活躍します。元に戻したり、繰り返したりが簡単にできるので、子どもたちが何度でもチャレンジしやすい環境を提供できます。

ここで大事なことは、できるだけ多様なツールに触れること。今の子どもたちが社会に出た時に、現在と同じツールが使えるかどうかは分かりません。でもたくさん触れてきた経験があると、たとえツールが変わったとしても、「こうすれば、こんなふうに動くだろう」といった想定ができるようになります。

──デジタルツールは、子どもたちにとっても欠かせないものになりますね。

大人が生活や仕事の基盤として当たり前のように使っているデジタルツールを、学校で使用しないというのは明らかに矛盾しています。いつでもどこでもすぐに利用できるのが、デジタルツールの良いところ。授業時間以外でも自分のあたまとからだの一部として使えるのが本来の姿です。

「GIGAスクール構想」をはじめとした様々な取り組みがきっかけとなって、ICT活用についての考え方と学びの環境が大きく変容していくことを望んでいます。

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SDGsという世界的な課題に対する考えをデジタルツールを活用して表現したコンテスト

──今回監修された「ハローキティと一緒にHello! SDGsクリエイティブアイデアコンテスト」では、デジタルツールで制作された作品を募集されましたが、コンテストの目的は何でしょうか?

SDGsは持続可能な世界の実現を目指す国際目標です。今回のコンテストの目的は2つありました。

1つは、子どもたちに持続可能な世界とはどんなもので、そのために私たちは何ができるのかを考えてもらうこと。

もう1つは、問題を解決するためのアイデアの表現方法としてアドビのデジタルツールを活用してもらい、新しい表現のしかたにチャレンジしてもらうことです。自分たちなりに捉えた現状や課題、解決に向けたアイデアを、言葉だけではなく、イラストや映像を使って想像力豊かに表現してもらいたいと考えました。

──応募作品を実際に見て、どのように感じましたか?

今回、オリジナリティあふれる作品が揃い、どれも甲乙つけがたいというのが正直な印象でした。スライドショーや動画にポスターを組み合わせるなど、表現の仕方やアプローチが多彩で、なるほどと感心させられる部分が数多くありました。

その中から優秀賞を選定しましたが、本コンテストのテーマに沿っているかはもちろんのこと、作品のなかで提示されているアイデアの質、それを伝えるためのデザイン、そしてデジタルツールの特徴を活かした表現になっているかどうかなどを総合的に評価しました。

──コンテストを通じて、伝えたいことはありますか?

持続可能な世界への変革のためには積極的で多様なアクションが必要です。「何ができるのだろう」「こういうやり方はできないだろうか」と考え、それを表現して、誰かに共感してもらう。それが人々の行動や社会の変容につながります。本コンテストへの参加を通じて、それぞれのアクションにつながることを期待しています。

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石井 雅章(いしい まさあき)
神田外語大学言語メディア教育研究センター(LMLRC)センター長・准教授。専門は環境社会学、「日本企業の環境対策」を研究テーマとしてもちながら、「未来の学びと持続可能な開発・発展研究会(みがくSD研)」のメンバーとして、SDGsやPBL(問題解決型学習)、越境研究者について実践的な研究に取り組んでいる。

ハローキティと一緒にHello! SDGsクリエイティブアイデアコンテスト 優秀賞発表!

今回開催された「ハローキティと一緒にHello! SDGsクリエイティブアイデアコンテスト」では、無料で使えるアドビのアプリAdobe Premiere Rush(※無料スタータープランの場合)またはAdobe Sparkで制作された動画、Webページ、グラフィックなど、たくさんの応募作品が集まった。

小学校・中学校・高等学校を対象とした「学校部門」から、小学校1作品、高校5作品の合計6作品、大学生・短大生・専門学校生を対象とした「学生・個人部門」から2作品、合計8作品が優秀賞に選出された。今回、「学生・個人部門」優秀賞の受賞者の声と作品を紹介する。

優秀賞〈学生個人部門〉

2030年を「価値観の違いを否定するのではなく、多様性を受け入れる社会」にするための企画のご提案

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東北芸術工科大学(宮城県) 米村 詩枝菜さん

私にはLGBTを公言している友だちがいます。色々な価値観を持った人々が幸せになれるような社会になってほしいという思いがあり、未婚率が上昇している社会背景と織り交ぜて解決策を考えました。

現状分析から提案という流れをAdobe Sparkを使い、スクロールすることで分かりやすく見せるようにしました。街中に設置された壁広告の目の部分を覗くと、さまざまな結婚のカタチが見られるというのは、隠れているものを見たくなるという人間の心理に訴えかけるアイデアです。

壁の色はSDGsのロゴの色を使用しました。身近な問題として捉えてもらうように全体的にやわらかいイメージでデザインし、多様性を認めるような世の中になって欲しいという願いを込めています。自分の考えをクリエイティブに表現する機会をいただき、貴重な経験となりました。

作品を見る>https://spark.adobe.com/page/GymyqX0M5adU1/

 

子どもが主体!「なんで?」探求型授業 ~持続可能な社会に向けて~

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藤女子大学(北海道) 小林 優実さん・髙田 遥佳さん

私たちが提案したのは、世の中の「なんで?」という疑問を、子どもたちが主体となって探求していく授業です。

このアイデアのポイントは2つ。1つ目は、問題の解決策まで自分たちで考えて、子どもたち自身が授業を行うこと。

2つ目は、子どもたちの探求的な学習にフィードバックと改善をプラスしたことです。遠い存在であるSDGsを、生活の中でも身近なものとして捉えなくてはいけない。そこで子どもたちが主体となって話し合い、考え、解決するという点に焦点を当てました。さまざまなことを伝えたいと思い、Adobe Sparkを使い、動画で表現しました。

動画制作は初めてでしたが、ツールが使いやすく、思っていたより手軽に制作できました。コンテストを通じて、自分たちの思いを形にすることの楽しさを感じ、SDGsについても考えることができ、視野も広がったと思います。

作品を見る>https://spark.adobe.com/video/ib2sSL8Gy7Htw

各部門で優秀賞を受賞したその他の作品はこちらから

クリエイティビティを発揮する機会を提供し、デジタルツールを通じて教育に貢献したい

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今回のコンテストを企画したアドビは、これまでも創造的問題解決能力を発揮できるような機会を提供し、学校や子どもたちのクリエイティビティ育成を支援してきた。マーケティング本部 教育市場部 小池晴子部長に、アドビが教育分野で目指す貢献について話をうかがった。

──今まで行ってきた教育分野の取り組みについて、どのようなものがありますか?

代表的なものとして、小学校向けプログラミング教室のTech Kids Schoolさまと連携して「Kids Creator's Studio」というプロジェクトを約2年間行いました。小学生がプログラミングスキルとUXデザインを理解してアドビのクリエイティブツールを好きなだけ使ったらどうなるだろう?というプロジェクトで、それぞれが発見した身近な課題を解決するためのスマホアプリを自由に制作・改善し、プロモーション動画も作ってくれました。

「Kids Creator's Studio」プロジェクトの模様はこちらから

また高校生~大学生を対象に、「Make It!」というプロジェクトを行って、「世界を変える架空の映画」を想定してポスターを作るコンテストを実施しました。これも若い世代が今の時代に感じる課題を解決しようという気概があふれる意欲作がたくさん集まりました。

「Make It!」プロジェクトの模様はこちらから

創造的問題解決能力の育成には、試行錯誤を重ねて失敗も成功も経験するなかで生まれるCreative Confidence(自身の創造性に対する自信)が大切だと考えており、そのきっかけの提供を意図しています。

──それらのプロジェクトを通じて感じたことはありますか?

諸外国と比べると日本の学校におけるICT環境は非常に遅れをとっています。だからといって子どもたちにポテンシャルがない訳では全くない。デジタルツールをすぐに自在につかいこなして大人をやすやすと超えた創造性を発揮してくれると感じています。

ですから今回のコンテストでも、「GIGAスクール構想」などの追い風により日本の学校でもきちんとICT環境が整えば、子どもたちがデジタルツールを当たり前の文房具として使う姿は実現できるという明るい見通しを持ちました。アドビはクリエイティブツールの会社としてそのためのサポートができればと思っています。

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──子どもたちの学びに対して、支援していることはありますか?

全世界での取り組みとして、Adobe Creative Cloudのライセンスは、一般向けと全く同じものを小中高校向けに1ユーザーあたり年間500円以下でご提供しています。今回のコンテストでも使われたAdobe Premiere Rushや、世界中で使われているIllustrator、Photoshopなどのアプリケーションが20種類以上含まれています。

またAdobe Sparkは高等教育機関を含めて学校では無料でお使いいただけます。ちなみに「子ども向けのツールは作らないのか」という声を寄せていただくことがあるのですが、実社会で使われているツールだからこそ子どもたちに学びの中で使ってもらう意義があると思っています。

実社会のツールなら子どもたちのアイデアにツールのスペックの制約で蓋をしてしまうことがないですし、課題解決アイデアを社会に即実装できるクオリティで実現することもできるからです。

──これからアドビが目指すものについて教えてください。

アドビのミッションステートメントは「すべての人に『つくる力』を」。複雑で予測不可能なVUCAの時代、課題を解決すること、言い換えれば創意工夫をし続けることが社会の一人ひとりに求められます。そのためアイデアを形にする力、つくる力を支える一つの手段として、子どもたちはもちろんすべての世代の方々にデジタルツールを当たり前の文房具として使っていただけるような貢献を続けていきたいと考えます。