国際基準に合わせた医学教育が進む中、高い学力だけでなく豊かな人間性も重視されています。今年、新たに大阪校を開校した医学部予備校、富士学院の坂本友寛学院長と、大阪市立大学大学院医学研究科長兼医学部長の大畑建治氏に、これからの医師に求められることや医学生の人材教育について語り合っていただきました。

知識、慈しみ、勇気を持つ 医学生を育てる

――最初に貴校のご紹介をお願いします。

大畑 大阪市立大学医学部は、終戦直前に設立されました。周辺には優秀な進学校が多く、大阪府下から来る学生の比率が高い傾向です。市立大学ですから大阪市民が求める保健医療に応えるのはもちろん、国際的な視野を備え国内外で活躍する医師も育成しています。医学部の基本理念は「智・仁・勇」。論語で三徳と言われている言葉で、智(知識)、仁(慈しむ心)、勇(勇気)を持って医療に携わる人材の育成をポリシーにしています。シミュレーション器材を使って技術トレーニングするスキルスシミュレーションセンターがあり、年間1万人以上が研修を受けるほど活発です。

坂本 富士学院は1995年に福岡で開校し、名古屋、東京など全国8カ所で直営校を運営しています。今年1月には待望の大阪校を開校し、現在多くの生徒たちが学んでいます。特徴の一つはすべての校舎が直営であること。フランチャイズで校舎を増やす予備校もありますが、富士学院の理念である「教え育む教育」を徹底・実践していくためにはフランチャイズではなく直営校での運営が必要だと考えています。また受験生の健康面を考え、全ての校舎で専用食堂を設け、専門の栄養士が栄養バランスに配慮した食事を土日を含め毎日3食提供しています。専用食堂は中高生などの来院生も利用できます。その他予備校には珍しいOB会が存在し、OBが将来医療業界全体に貢献していけるよう、OB会を応援しています。

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富士学院 学院長
坂本 友寛 氏

大畑 本学は医学生の国際交流も推進しています。海外で学ぶ意欲の高い学生が多いですね。毎年約30人が海外へ留学し、約50人の海外からの留学生を受け入れています。私の専門の脳神経外科教室は昔から英語でカンファレンスをしていて、国際学会に行ってすぐに英語で講演できるように教育しています。

坂本 英語に関して言えば、2020年度にはじまる大学入学共通テストでもわかるように、ますます実用性のある真の英語力が必要になってきます。そうした力を付けていくことも今後は大事なポイントになってきますね。

多様性を認められる 医師になるために

――これからの医師に求められるものは何だと思われますか。

大畑 最近は多様性という言葉を使っていますが、患者さんの治療に臨む態度や考え方、さらに宗教などは実に様々で、色々な人がいることを理解し、認めることだと思います。私は色々な国で手術をしましたが国によってルールがありますし、本学を訪れるイスラム教の人のためには礼拝できる場所を用意しています。治療に対する向き合い方も人それぞれに違い、患者さんの気持ちを理解できることが大事。多様性を認められる医師になるには、やはり臨床現場での学びが必要です。

坂本 医師としての技量は当然ですが、患者さんに寄り添える人間力が求められていると思います。富士学院では、将来、良医として活躍していける人間力を育んでいくために必要な様々な取り組みを行っていますが、その一つが面接指導や個別面談です。富士学院の面接指導は合格するためのノウハウ的なものではなく、一人ひとりに自覚と覚悟を促し生徒自身を成長に導いていく指導を一貫して行っています。

受験生の人間性を見る面接を重視

 ――大阪市立大学医学部の受験の現状を教えてください。

大畑 本学は2019年から推薦入試を始め、その中に地域医療枠を設けています。一定の成績は重視されますが、人間性の豊かな人を推薦してほしいですね。医師には精神的な強さと、患者さんに限りなく優しく接することができる態度が求められますから。私は大学時代の5年間、「人間性を磨きたい。色々な人と交わりたい」と思って、野球部と少林寺拳法部に所属していました。

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大阪市立大学大学院 医学研究科長兼医学部長
大畑 建治 氏

坂本 医師としての資質は面接試験で見ていくのですか。

大畑 受験生を面接で評価するのは難しいものですが、ディスカッションできる能力、人の表情から相手を理解する能力、聞く力などを見ます。今年は資料から真実を見抜く力を問うために、受験生数人でディスカッションさせました。数枚のデータを瞬時に読み込み、自分はどう考えるのかを小論文にまとめ、グループで議論してもらったんです。普段から医療における社会的な背景を考えていないと答えられない問題でしょう。一人ひとり治療が異なる医療に携わるということは、正解のない問題を解くようなもの。ですから、高校の勉強だけでなく新聞を読むなど社会問題に興味を持つことを勧めたいですね。

坂本 これまで面接試験をしてこなかった国立大学医学部でも面接試験の導入が決まり、来年度入試からは全ての国公立・私立大学医学部で面接試験が導入されます。大学によっては面接を何回も行うところもあり、面接重視の流れは間違いなくありますね。

職員と講師が一丸となり 生徒をチームで支える

――富士学院として受験生のために行っている独自の取り組みをお聞かせください。

坂本 生徒に科目を教える講師や担任、職員、校舎長がチームを作って生徒を支えています。受験は総合点で合否が決まりますので、「この時期にはこの科目を伸ばす」などそれぞれの生徒の状況に応じ、科目間の指導バランスを調整しています。合格のために今何をすべきかを話し合うチーム会議には、生徒自身も参加をするので自身のやるべき課題も明確になり、生徒は安心して勉強に向かえるようになります。勉強のための勉強ではなく、医師として活躍していくための勉強だという自覚を持つことが、とても大事になってきます。またチームで生徒を把握できているため生徒にとって一番相性のいい大学を出願先に選べ、受験に向けた具体的な対策を取ることもできます。2019年度入試は医学部医学科の専願者333人中、実数で173人が医学部医学科に合格しました(合格率52%)。チームでの支えがこの合格実績につながっていると思っています。

大畑 自主性は大事ですね。本学では6年次の臨床実習の一環として学生が自分で応募したり、私たち教員が紹介したりして海外の色々な所で研修します。無謀にも国家試験の前に(笑)。

坂本 そういう熱意のある人は国家試験にも合格するのでしょうね。大阪市立大学医学部では、「自ら学び自ら考え自ら育つ能力を身に付ける」教育をされていると聞きます。富士学院でも同じように自ら自覚ができた生徒は、夜学習でも、もくもくと自学習に励みます。周りには同様に頑張っている生徒がたくさんいるため、互いに切磋琢磨できるようです。さらには講師も職員も彼らの様子をよく見ているので、悩んでいたり、落ち込んでいたらその都度声をかけ、励ましています。生徒たちは今後の医療を担っていく、本当に大事な人材です。私たちはその大事な人材一人ひとりを成長に導いていく大きな責任があると思っています。

大畑 本学医学部の基本理念「智・仁・勇」と最初に「智」がくるのは、やはりまず知識なんです。大学6年間の間に膨大な知識を身に付けないといけません。知識や情報があって初めて国家試験に通り、外科手術もできるようになるわけです。医学生になっても越えるべき壁はどうしてもあります。

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受験時代の不安 つらい経験は生きる

 ――これから医学部、医師を目指す人たちにメッセージをお願いします。

大畑 国内外にある様々な医療施設で臨床経験を積むのは大事なことです。私自身、留学したことで逆に日本の医療のすばらしさが分かり、自信を持ちました。自分のすることに自信が持てれば、難しい手術もできるようになります。そして、まず人間性豊かな人になっていただきたいですね。豊かな人生なくして良い医療人にはなりえないと思いますから、友達や仲間を大事にすることも忘れないでほしいです。

坂本 私の子どもが赤ん坊だった時に大病を患い、夜間に緊急手術をして助けていただいたことがあります。医師の仕事は大変だけれど、いのちと向き合い、いのちを守るすばらしい仕事です。今、受験勉強をしている生徒のみなさんは、それぞれに色々な壁があって、苦労やつらいことがいっぱいあると思いますが、その経験は医師になった時に必ず生きてきます。ぜひその壁を乗り越えて頑張ってほしいです。

大畑 大学受験って、自分の人生がこれで決まるのではないかと不安になるもの。不安を感じる中でも自分を見失わないでほしいと思います。

坂本 勉強を頑張っている生徒ほど、合格へのプレッシャーに襲われがちです。これからも生徒一人ひとりに寄り添い、全力で応援したいと思います。今日はありがとうございました。

大阪市立大学

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日本最大規模の公立大学で大阪市内に位置する唯一の総合大学。1880年に五代友厚らによって開所された大阪商業講習所を源流とする。商学・経済学・法学・文学・理学・工学・医学・生活科学の8学部を有する総合大学ならではの幅広い学びが特長であり、学部を横断した最先端研究も活発に行われている。 これまでに南部陽一郎特別栄誉教授、山中伸弥教授の2人のノーベル賞受賞者を輩出している。

 阿倍野キャンパス:大阪市阿倍野区旭町1-4-3

http://www.med.osaka-cu.ac.jp/

富士学院

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医学部を目指す生徒のための、医学部受験予備校。1995年に福岡の地で創業し、東京から鹿児島まで全国8校舎を直営校として展開する。指導理念にもある「教え育む教育」を講師・職員が一丸となって実践し、年間を通して受験科目の全てを指導する「富士ゼミ」や、生徒一人ひとりの目標や目的に応じた指導を行うマンツーマン対応の「個人指導」の二つの大きな柱に加え、推薦入試対策講座など、生徒一人ひとりに合わせた指導を行っている。

大阪校:大阪市北区中崎西2-4-41

https://www.fujigakuin.jp/