読み書き障害など学びづらさのある子はどう学習し、進学の壁をどう乗り越えればいいのか…。オンラインイベント「凸凹のある子の未来を輝かせよう~GIGA時代だからできる進学と学び」(主催・朝日新聞社総合プロデュース本部)が4日に開かれた。専門家6人と、代読などの配慮を受けて受験した高校生・大学生3人が登壇。インクルーシブ教育が叫ばれる「1人1台端末時代」の学びを語り合った。   

このイベントは、朝日新聞東京版の連載「凸凹の輝く教育」を書籍化した「学びに凸凹のある子が輝く デジタル時代の教育支援ガイド~子ども・保護者・教師からの100の提言」(学研教育みらい、税込み1870円)の出版記念で開催された。

「『進学の壁』 デジタル活用でどう乗り越える」と題した第1部では、朝日新聞の宮坂麻子・編集委員をコーディネーターに、大学入試センターの試験・研究統括官を務める大津起夫さんと、東大先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授、書字障害の息子を慶応大に導いた菊田史子・一般社団法人「読み書き配慮」代表が対談した。

共通テストで「配慮」延べ6300件

大津さんは、今年1月の大学入学共通テストでの代読や問題拡大などの配慮の現状を報告。延べ約6300件の配慮を認めたが、パソコンなど端末使用は、年間数件しか認めていないなどとした。「ほとんどがタブレット端末で問題提示する事例。端末で下書きし紙でチェック解答した例もある。かなり制約された用法だ」と解説した。

近藤さんは、米国や英国では障害のある大学生が全学生の2割近くで、その半数近くがLD(学習障害)やADHD(注意欠陥・多動性障害)などの発達障害であるのに対し、日本の大学ではまだ1%程度しかいないと説明。ただ、障害者差別解消法施行以降、急激に増えており、インクルーシブ教育が進む今後はもっと増えるという。「中学・高校での学びも変わり、質的にも量的にも今と違う高校入試、大学入試が必要になる。一方で、配慮の必要性の根拠をだれが示すのかが大きな課題だ」と指摘した。

菊田さんは、「親だけがかけずり回るのではなく、学校にも支援していただきたい。サポートチームができた学校は非常にうまく進む。端末を活用し、『できた』『わかった』を繰り返すことで自己肯定感も育つ」などと、学校との連携を求めた。

「みんな同じ」を変える

第2部では、凸凹のある子たちと様々なプログラムを立ち上げている、東大先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授が登壇。「凸凹のある子が輝く 学校から飛び出す学び」をテーマに講演した。「みんな同じ」「公平」という教育を変えないとインクルーシブな社会への転換はできないとし、「学校での一斉授業は午前中だけにして、午後は好きなことがやれる場を自分で探して行く経験を早くからさせる」などと持論を語った。

筆算
紙の上での筆算で桁がそろえられない子には、デジタルノートの色を付けた拡大画面で書かせるという支援の方法がある=井上賞子さんのイベント発表資料から

第3部の「凸凹のある子の学習指導 デジタル機器どう使う?」の分科会「どう指導する?」では、発達障害の子の学習支援に詳しい島根県安来市立荒島小学校の井上賞子教諭が、様々なアプリを紹介。「GIGAスクール構想」導入後の状況にも触れ、「『学校の端末がクロームブックだから、クロームで今までと同じ学びができるアプリはないですか』などの問い合わせがある」と語り、「みんなと同じ端末、同じ使い方ありきではなく、その子に必要な形で使える環境にして欲しい」と訴えた。

米ニューヨーク州学校心理士で早稲田大大学院非常勤講師のバーンズ亀山静子さんも米国から登壇し、アメリカの法的に制度化されたインクルーシブ教育の現状を報告。「端末使用や別室受験、解答方法の変更などの形での配慮でよければ特別支援教育の対象にはならず、インクルーシブが基本」とし、日本でも障害者差別解消法ができたのだから、「そこに目を向けて権利保障を」などと語った。

漢字
書字障害の子が書いた文字。パーツは合っているが形が整わない=井上賞子さんのイベント発表資料から

配慮受けた経験、口々に    

第3部のもうひとつの分科会「どう求めていけば? 経験者に聞く」では、朝日新聞東京本社社会部の川口敦子記者をコーディネーターに、定期テストや受験で配慮を受けた高校生と大学生の計3人が、同じような困難を抱える子たちに向けて経験を語った。

私立高校1年のあまねさんは、読書好きで小学生時代から分厚い本をたくさん読む。だが、手書きの文字は6年生になっても形が整わず、読めるような漢字は書けなかった。「自分がどこまでできるかできないかを知ることが一番難しかった」と語る。

小学校時代から、ポメラという端末とデジタルカメラを活用。中学は配慮を得るために、特別支援学級に在籍したが、iPadとスキャナーを活用し、定期試験も学校のパソコンで入力。中3時の授業はすべて通常学級で受けた。

ノート代わりのiPadを持参して、学校説明会を回り、入試や入学後の配慮を求めた。GIGAスクール構想で1人1台端末の時代になったためか、iPadの使い方を興味深く見る先生たちもいた。ICT教育の進む高校にも相談したが、「授業はいいけれど、入試は無理」と、端末を使わせてくれる高校はほとんどなかったという。

中学の先生たちの支援もあり、入試での端末使用を認めてくれた第1志望の私立高校に進学できた。「先生たちもよくわかっていない。自分で説明できることが重要になる」と同じような子たちには助言する。

周囲の理解得るのに苦労

国立大学2年のこうきさんは、在住する県内の高校入試で初めて、配慮が認められた生徒だった。高校の授業では端末を使用。大学入試センター試験では、「全教科代読」の配慮は得られたが、端末使用はできなかった。「自分は周囲の人に恵まれたが、それでも100%満足な配慮は、学校でも入試でも得られなかった。環境にかかわらず、みんなが苦労せず十分な配慮をもらえる社会に変わって欲しい」と話した。

私立大学2年のいっせいさんは、読み書きが苦手で、「かつて、端末を使いたいと求めると『書くことをあきらめるのか』と先生に言われ、理解してもらうのに苦労した」と明かす。中高ともノートテイクは端末。機械での音声読み上げも活用していた。大学入学後は、課題や試験もパソコンだ。ただ、教員によって試験形式なども異なる。「自分の特性を理解してもらうと同時に、配慮できない事情にも理解し、面談を繰り返すことが大切」と話した。 

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このイベントの動画は、12月21日~来年1月31日まで期間限定でご覧いただけます。当日投影された資料は、こちらからダウンロードが可能です。https://drive.google.com/drive/folders/1kRnJnidZuPM3KnqI7R2sBkNfQhC2rSrn?usp=sharing また、授業や入試で様々なツールを使い配慮を受けた多くの事例は、出版された書籍「学びに凸凹のある子が輝く デジタル時代の教育支援ガイド」に掲載されています。