いろいろな友だちと一緒に学ぶ効果を発揮するのは、どんなときでしょうか。さまざまな場面が考えられますが、正解が一つではなく、子どもたちから多様な解答や意見が出てくると見込まれるときというのは、協働学習の格好の舞台と言えるでしょう。そして、多様な答えがあり得る教科としてまず思い浮かぶのが、「特別の教科 道徳」です。「GIGAスクール構想」で学校に配備された1人1台の端末を使って繰り広げられている、ある小学校の「道徳」の授業を取材しました。

「将来の夢は、ありますか」。東京都八王子市の市立緑が丘小学校。5年2組の担任教諭、澤崎恭大先生(27)の思いがけない質問に、教室はざわついた。「あるー」という大きな声に、いろいろな夢が子どもたちの口から飛び出す。「じゃあ、アンケートに答えてみてください」。澤崎先生はそう言うと、あらかじめ机の上に用意させていたタブレット端末を使うよう指示した。将来の夢の有無と、夢がある人は何になりたいかを簡単に書くアンケートだ。

 「将来の夢」アンケートで集約し共有

「グーグルフォーム」というソフトを使ったアンケートの集計結果は、その場でみんなの端末のほか、教室の大型モニターにも表示される。クラスの30人中、将来の夢が「ある」と答えた人は26人、「ない」「無回答」が計4人。夢の中身は、プログラマー、獣医さん、体操の選手、イラストレーター、看護師、大工、インテリアデザイナー、科学者、ラグビー選手、スキー選手、弁護士、幼稚園の先生、おもちゃクリエーター……と見事にばらばらに分かれた。

「将来の夢」アンケートを取ったら……
1人1台端末を使って「将来の夢」のアンケートに答えてもらうと、さまざまな職業が即座に大型画面に表れた=東京都八王子市立緑が丘小学校

「夢がある人もない人も、大人になります。その時、どんな気持ちで仕事に取り組みたいか、最後に考えてくださいね」。澤崎先生はそう語りかけると、いったん端末は脇に置いて教科書を開くように求めた。

この日取り上げたのは「お父さんは救急救命士」という話。主人公の「わたし」(女の子)のお父さんは消防署に勤める救急救命士で、家族で海に遊びに行ったとき、おぼれた男の子が砂浜に引き上げられたところに出くわす。呼吸していないのを確かめると、周りの人に119番への通報やAEDを探してくることを頼み、人工呼吸と心臓マッサージを何度も繰り返すお父さん。その額からは汗が噴き出している。やがて男の子は自発呼吸が戻り、命をとりとめる。働くことの意義を理解し、役に立つことをしようとする心情を育てるのがこの学習のねらいだ。

端末を使い自分の意見を表現
1人1台の端末を使って自分の意見を書き込む子どもたち=東京都八王子市立緑が丘小学校

「お父さん、仕事中だったのかな」との澤崎先生の問いかけに、「ちがーう」と答える子どもたち。「じゃあ、男の子のところに行かなくてもいいじゃん」「自分しか助けられないと思った」「救急救命士は自分しかいないと思った」。そんなやりとりをしばらく続けて状況をおさらいすると、澤崎先生はこう話した。「ここで君たちに考えてほしいのは、お父さん目線じゃなくて、お父さんの姿を見ていた『私』がどう思ったか、です。『ジャムボード』を使って作ってみてください」。

 友だちの意見から「いいな」を見つける

澤崎先生が使用を指示したアプリ「ジャムボード」は、1枚の模造紙にみんなで付箋を貼っていくイメージで、それぞれの端末から一緒に作業ができる。班ごとに用意されたボードには、女の子の心情を推し量って書いた「付箋」が次々に現れ、画面を埋めていく。

「お父さんすごい」

「かっこいい」

「いっぱい訓練しているから男の子を助けられると思う」

「お父さんがいなかったら、いまごろどうなっていたんだろう」

「思っていた以上に大変なんだな」

ひと通り書き終えたところで、次に澤崎先生がみんなに求めたのは、端末を使って、他の人がどんな意見を書いているかを知ることだった。「いいな、と思うものがあったら、後で発表してもらいます」。子どもたちは引き続き画面に向き合い、別の班のボードにも目を通していった。

他の人の意見も見える
「ジャムボード」というアプリを使えば、他の人がどんなことを書いているかがお互いにわかる=東京都八王子市立緑が丘小学校

書いた意見が真っ先に友だちの共感を受けたのは古市明日香さん(10)。「助けたい、という熱い思いが伝わってきた」と書いていた。その思いは、主人公の女の子を通して自分にも理解できたという。

手を挙げて発表した一人、金子大峨さん(10)は「私にできることはないかな」という意見に共感したという。男の子を助けようと懸命になるお父さんを見ているだけでなく、「自分も人のために動こうとしているのがいいと思った」と説明した。澤崎先生は、同じ意見について「いいな」と思った人に手を挙げてもらうとともに、似たような意見も取り上げて紹介した。

そこで授業はそれぞれの夢の話題に戻る。「では君たちが夢の仕事に就いたとき、どんな気持ちで取り組みたいか、ノートに書いてください」というのが、澤崎先生がみんなに求めたこの日最後のミッションだった。

教室ごとに保管
タブレット端末は教室ごとに専用の収納保管に収めて充電する。左は筒井泰行副校長=東京都八王子市立緑が丘小学校

古市さんは、将来の夢を「建築家」と書いていた。将来、仕事に就くときには、「住む人の気持ちに寄り添って家を作りたい」のだという。金子さんは将来就きたい仕事の具体的なイメージはまだないが、「人を助けることがしたいと思っている」という。

澤崎先生によると、他の人の意見を読み、いいなと思うものを見つけて発表してもらう手法は、今回の授業で初めて試したという。「子どもたちはちゃんと読み取りができていたようで、そこはよかった」と言う。そのうえで「意見が取り上げられた本人にも書いた理由を解説してもらうなど、話し合いの時間をもう少し長く取ることが次に向けての改善点です」と付け加えた。