「GIGAスクール構想」が始まり、小中学生らに1人1台ずつ配備されたパソコンやタブレットを授業や学校生活に取り入れる工夫が、全国の学校で進められています。初めは時間が予定の2倍もかかったり、小さなトラブルが起きたりするかもしれませんが、子どもたちの反応は上々という声も聞こえてきます。

5月中旬、川崎市立小学校情報教育研究会の会合が、同市幸区の下平間小学校で開かれた。市域が北西から東南にかけて細長く延びる川崎市で放課後、全域の先生たちが一堂に会するには、両端でもなく、JR駅から徒歩5分の同校は好都合だ。

35人ほどの先生たちもまた、1人1台ずつ配られたChromebook(クロームブック)を持ち寄って集まった。学年ごとの班別の話し合いでは、それぞれが課題と受け止めていることなどを「ジャムボード」と呼ばれるクラウドアプリケーションを使ってまとめていく。思いついたアイデアを付箋に書いて模造紙に貼るイメージで、端末の画面に表示されるアプリだ。授業で使われる機会も多い。

模造紙に付箋貼るイメージで情報共有

「タイピングスキルはどのくらい」(2年生)、「ローマ字入力へのサポート」(3年生)、「考えながら打ち込むのは難しい」(5年生)などと書き込まれた「付箋」が次々と並んでいく。参加者からは「子どもたちがある程度、キーボード入力ができるようになったとしても、ノートを取ることとの使い分けはどのように考えたらいいのでしょうか」と戸惑う声も聞かれた。

下平間小から参加した教諭の1人で、5年生の担任の牛田直樹先生(30)はこの日の国語の授業で、初めて「オクリンク」という授業支援ソフトを使ってみた。操作が簡単で、自分の意見などを書いたカードのほか、画面も先生やみんなと共有できるのが特徴のソフトだという。まずは3人1組の班ごとに動画を作成してもらった。

子どもたちには初めての経験とあって多くの班が撮影に手間取った。「ちょっと声が小さかったね」「もう1回やってみようか」とやり直す動きがあちらでもこちらでも出てきて、1時間で終わらせるつもりが2倍の2時間近くかかった。

ただ、「僕が何も言わないのに撮った動画を自分たちで確認していた。『こんなことしたい』と提案してくる子もいて、意欲的な姿勢を感じた」と牛田先生は言う。進め方を反省しながらも、手応えを感じているようだ。

毎週2回は「好きに使える時間」

牛田先生は教員7年目。この4月に下平間小に転勤してきたばかりだが、「GIGAスクール構想」始動にあたり、同校の情報担当という大役を任された。端末の利用法について、他の先生から相談を受けることもある。「どうしたらいい?」。授業の合間、自分のデータが子どもの端末でも見られるよう共有しようとしたが、うまくいかなかったという。休み時間に様子を見に行くと、画像としてなら共有が容易にできることに目をつけたその先生は、データをカメラで撮影して画像にすることで乗り切っていた。小さなトラブルは日常茶飯事だ。

牛田先生のクラスでは、毎週火、金曜の朝、端末を好きなように使える時間も設けている。「ゲームなど勉強に関係ないことはしない」「大事に扱う」というルールの下、子どもたちは自主的にインターネットを使って調べものをしたり、自主学習ソフトの中にある計算問題を解いたりしているという。

音声入力にも課題

やりながらわかってくることもある。先行してICT教育を進める川崎市立旭町小の青木あゆ子校長によると、ローマ字入力が難しい低学年の場合、音声入力という方法も使える。しかし、変換された漢字にはふりがなが付いていないため、低学年の子には合っているかどうかがわからないそうだ。

下平間小の樋口彰校長(60)は昨年度まで2年間、市立小情報教育研究会の会長を務めた。自校の「GIGAスクール」の滑り出しをどうみるか。「順調な部類ではないでしょうか。トップダウンではなく、情報担当が多くの先生と連携しながら一生懸命動いていることが後々、生きてくると思う」と話す。

下平間小学校の樋口彰校長
「1人1台」の端末を操作しながら、自校の取り組みを紹介する川崎市立下平間小学校の樋口彰校長。市立小中学校は同じクロームブックを使っているという