6月を迎えて、本州では例年ならばそろそろ梅雨の季節がやってくるという時期なのですが、今年度は西日本ではすでに梅雨入りしており、東日本でも雨模様の天気が多く、いつ梅雨入りしてもおかしくない天候だといえます。ところで、梅雨というと気温や湿度が上がる季節なので、決して学習には適したとはいえない季節です。これに加えて、新型コロナウイルス感染症の収束もなかなか見通せない中では、ともすれば閉塞感に襲われる受験生もいるのではないでしょうか。でも、この時期にしっかりといい学習習慣を身に付けると、夏以降の学習がうまく進んでいくことは間違いありません。ぜひ、前を向いて目標に向かって進んでいきましょう。

さて、今月号は「志望校の決定へのアドバイス」と「自分自身の学力把握」についてお話します。

志望校決定へのアドバイス

志望校の決定には、まず将来の進路(職業)を定めて、その進路を可能にする学部・学科を見つけて、それが設置されている大学を調べて、その中から志望校を見つけるという、職業選択を最終目標として、逆算的に考えていくというやり方がもてはやされた時代がありました。果たして、このやり方は今でも通用するのでしょうか?

今回の新型コロナウイルス感染症の流行で、社会は大きく変わってしまいました。たとえば、感染予防のための移動制限の結果、新幹線や航空機の利用者数、ホテルや旅館などの宿泊者数はともに激減してしまいました。2年前までは、日本中に外国人旅行者があふれ、東京オリンピック・パラリンピックを控えて、観光関係の需要はとても大きかったのが、様変わりです。

一方で、皆さんも昨年の学校一斉休校の期間に利用した方もいるかもしれませんが、オンライン授業や、保護者の皆さんが勤務先の仕事を自宅で行うリモートワークなど、今まではあまり浸透していなかった新しいICT関連の技術や通信インフラの整備が大きな注目を浴びるようになりました。日本人が長年守ってきた「多数が同じ部屋に集う会議」「現金」「印鑑」なども「オンライン会議」「キャッシュレス」「電子決裁」といったものにあっという間に取って代わられそうです。

系統別志願状況(501大学

上図は、4月号でも紹介した2021年度入試の私立大一般選抜における系統別志願状況(今月は501大学集計)です。志願者数を見ると文系での大きな減少が見られますが、保健衛生、医、理、工などでは減少率が小さくなっており、いわゆる「文低理髙」状態が見られます。おそらくこの傾向は、来年の2022年度入試でも続くでしょう。

戦後最大ともいわれる景気の後退や国境を越える移動制限がいまだに続いていることから、受験生自身よりも保護者の皆さんがより心配されて、経済・経営・商学系や外国語系、国際関係系といったコロナ禍の影響が大きいと思われる系統への志願者が減少しています。逆に、オンライン、リモートといったICT関連と深いかかわりがある理工系の系統への志願者は減少率が小さく、増加へ転じることも考えられます。

また、メディカル系は、コロナ対策で医療従事者がクローズアップされる中で、非常に高い意識をもって志望する受験生の割合が増加し、医、薬、保健衛生などの人気の高まりが感じられます。

系統別志願状況(2018年)

ところで、上表は2018年度入試の私立大一般選抜における系統別志願状況です。ちょうど、今の大学4年生が大学に入学した年度です。ご覧のように、国際関係系、経済・経営・商学系いずれも前年度比10%以上の増加で、人気が非常に高い系統でした。この時の受験生が、4年後の今の状況を予想できたでしょうか。まず、いないと思います。つまり、大学受験時の社会状況を基準にして、「この系統は就職や将来に有望だな!」と思って志望しても、大学4年間で大きく状況は変化してしまうということなのです。

では、どうやって志望校を決めればいいのでしょうか? 今、大学改革が叫ばれる中で、大学は社会に出てから継続して学んでいくための「学び方」を学ぶところだと言われています。受験生の皆さんはその「学び方」を学ぶためには、自分のやりたいこと、好きなことを見つけてください。そして、それが実現できる環境を持った大学を選んでください。「自分の夢を実現できる大学」、これを選択することが大事です。

今年も、直接足を運んでのオープンキャンパスや業者が多数の大学関係者を一堂に集めて実施する大学説明会の開催はコロナ以前の様には実施することが難しい状況です。その代わりに多くの大学はオンラインでの大学紹介や説明会の開催を予定しています。ぜひ、志望校のWEBサイトにアクセスしてください。

従来型オープンキャンパスはその場の雰囲気で、ともすれば志望校のいいところしか見えない場合がありました。WEBを通してということで、大学が提供するコンテンツを冷静に見ることができます。また、遠隔地の大学の情報も入手できますし、時間的制約もないので、自分の夢が実現できる大学をしっかりと探し出せるのではないでしょうか。ぜひ、うまく活用して、自分の夢実現への第1歩としてください。

自分自身の学力把握をしっかりと!

次に、「自分自身の学力把握」です。そのためには、模試をうまく活用したいものです。以下では模試の活用法についてのお話をしていきます。

◎模試の選択
予備校や出版社では数多くの模試を実施しています。もちろん高校内で実施される模試をしっかりと受験することが一番大事ですが、それ以外に個人で受験申し込みをする場合に自分はどの模試を受験したらいいか迷うことがあると思います。その時の決め手は、模試の母集団(受験者のレベル)が自分の学力に合っているかどうかです。

 模試によって偏差値の意味が異なりますので、自分の志望校のレベルに合った母集団の模試を選ぶのがベターだといえます。特に、高3生対象の模試は、入試本番では高卒生も含まれた集団で行われるわけですから、自分の志望大学を目指している高卒生の集団も含まれている模試のほうが、より正確な合否判定結果を得ることができます。

 また、現在の自分の学力レベルでは厳しいと思っても、駿台の「大学別入試実戦模試」などの特定大学対象模試は、その大学を志望している人は、ぜひ受験してください。こういった特定大学対象模試では、本番さながらの雰囲気や問題・解答用紙の形式に慣れておくのに最適だからです。

◎模試受験の心構え
入試本番の練習であることを意識して試験中はまず問題をよく見て、各問題の難易度を見極め、時間配分を決めて解答しましょう。入試本番でもそうですが、全問を完答できればベストですが、実際には完答できなくても合格点を獲得することは可能です。多くの受験生が正解できる問題を落とすことなく、そこにさらに少しの上乗せができればいいのです。そのためのトレーニングの場が模試の受験なのです。

入試本番ではかなり緊張しますが、そんな状況の中でも定められた試験時間内で効率良く、正確に解答していくことで合格への目標得点をクリアできます。模試受験の際には、こういった効率的な解答作成の手順を身につけることを常に意識しましょう。

◎模試受験後には必ず復習を!
模試を受験したままにしてしまうことは論外です。自分の弱点を補い、誤った思い込みをなくすためにも復習は不可欠だといえます。次に類題が出た時には、必ず完答できるようにきちんと復習しておきたいものです。手がつかなかったり、誤ったりしたところを放置したり、投げ出したりせずに、確実に修正していくことが大事です。試験当日、答案返却時、忘れかけた頃(例えば3か月後)といった最低3回の復習を行うことで、入試本番に向けた学力の定着がはかれるのです。

◎成績表のヒントを見逃すな!!
模試の成績表が返却されたとき、まず見てしまうのが偏差値や志望大学の判定だと思いますが、一番重要なことは各教科、各分野別の得点(素点)を平均点と比較しながら見ることです。特に設問別平均点が高い問題で失点しているようでは、総合点では全体よりも良くできていたとしても、学力になんらかの欠陥や問題点があるはずなのです。この部分をしっかりと分析して、以後の学習計画に役立てましょう。

また、記述模試では、成績表と同時に返却される進学参考資料には採点講評が掲載されており、受験生の誤りやすい点が指摘されているので、熟読してもう一度復習を行うことが効果的です。

◎模試の結果に一喜一憂しない
模試の結果、特に志望校判定の結果によって、一喜一憂することは決していいことではありません。模試を受験すると高1・2や高3の1学期など本番までにかなり時間がある場合でも、必ず「合格可能性○○%」とか「○判定」などと出ますが、これはあくまでその時点での可能性に過ぎません。それ以降にいかに継続して効果的な学習が出来るかどうかで合否が分かれます。極端なことをいえば、高3の6月時点で合格可能性80%と判定されても、それ以降に気が緩んで学習を怠ってしまっては、決して良い結果は望めません。

したがって、模試の結果が良ければ、「この調子でがんばろう!」と気を引き締めなおし、結果が悪ければ、「入試本番までに何とか挽回してやろう!」というように常に前向きな気持ちになることが大切だと思います。

◎オンライン受験などの活用
前年度と比較すると、予備校や出版社主催の模試は例年通りの予定で実施されています。しかし、新型コロナ感染症予防のため公開会場の縮小や定員の削減も行われており、受験したい模試が自由に公開会場で受験できない場合もあります。そこで、うまく活用してほしいのは、「自宅受験」や「オンライン受験」です。いずれも、集団での受験ではないので、本番の雰囲気に慣れるということはできませんが、自分の学力把握という面ではうまく利用したいものです。

その際に大事なことは、自宅受験やオンライン受験でも、受験に際しては気持ちを切り替えて(例えば、制服に着替えるなど)、公開会場や高校の教室で受験するというイメージトレーニングをいかにできるかが大事なのです。制限時間をいい加減に管理するなどは論外ですが、しっかりと試験時間内に集中できるかが重要です。時間割を掲示して、もし早くできたら見直しをする。そういった、いつもの模試でやっていることが、自宅受験やオンライン受験でもできるかどうかが、大きなキーポイントになります。

 

以上が模試の活用法の基本ですが、高校の先生や先輩の意見なども聞いて、模試受験がより意味のある、入試本番に向けて役に立つものになるように各自でチェックしてください。