親友の直樹(当時30歳)がネットワークビジネスにはまる過程とマインドコントロールがとけるまでを書いた前編中編。最後となる後編では、心理学を中心とした対人コミュニケーションに詳しい大学の恩師を訪ね、「なぜ直樹はマインドコントロールされたのか」「何に気を付ければいいか」などについて話を聞きました。

「マインドコントロール」研究の難しさ

今回起きたできごとについて詳しい人の話を聞きたく、大学の恩師を訪ねることにしました。早稲田大学の人間科学部や大学院の人間科学研究科で教鞭をとられている、鈴木晶夫教授です。社会的相互作用・対人関係や非言語行動/ノンバーバル行動などを研究されています。

鈴木晶夫研究室web

「オウム真理教による一連の事件が起きたときにマインドコントロールに関する研究は増えたが、今は必ずしも活発に研究されている分野ではない」と、鈴木先生は話します。

今回お話を伺った鈴木晶夫教授(の似顔絵)

理由の一つは「研究の難しさ」が挙げられます。研究するためには、マインドコントロールのさなかにいる人を研究対象にする、あるいは、その状態にない人を研究のためにマインドコントロールを仕掛ける必要があるからです。いずれにせよ「人を対象とする(人の心身に介入する)研究」に該当し、倫理規定とそれを元にした厳しい審査が存在するそうです。

そのため、今回の話も「マルチ商法とマインドコントール」にぴったり適合する研究は少なく、例えばマインドコントロールの過程で発生する「説得」など、関連する研究からひも解くことになりました。

マインドコントロールしやすい時代

インターネットの普及により情報発信・取得が容易になった負の影響として、「マインドコントロールをしやすい時代になったといえる」と先生は言います。

例えば商品名で検索するとWikipediaやAmazonなど「公式感」のあるページのほか、「ねずみ講ではない」とタイトルに入ったブログ、「マルチ商法」を扱ったNAVERまとめ、とプラス・マイナス両方の情報が出てきます。

「Amazonでも商品の取り扱いがある」というお墨付き感

検索1ページ目に出てくるブログでは、マルチ商法であることは触れつつも「愛用している芸能人」として、誰もが知っている著名人の名前を羅列しています。

また、マルチ商法というビジネスモデルについても中立~やや擁護をしているような印象を受けました。

「愛用者」として誰もが知っている著名人の名前が並ぶ

「ほどほどに否定的な内容が混じっている方が、プラスの情報を信じやすくなる」と鈴木先生は話します。

そのプラスの情報を「誰が書いているのか」「何を根拠に書いているのか」まで意識して読まないと、組織側が準備する「この検索結果を元に作られた説得のストーリー」に乗せられ、直樹のように「マイナスの情報は、ちゃんとセミナーを受けずに失敗した人が書いている」といったマインドコントロールをされることになります。昨今話題になっているフェイクニュースも同じ構造といえるのではないでしょうか。

ネットワークビジネスの被害者に共通する「11の特徴」

マルチ商法問題の実態を取り上げている論文では、過去の消費者事件や相談の傾向から「以下の各事項に該当し、その数が多いほど悪質商法の被害に遭う可能性が高い」としています。

  1. 頼まれたら断れない
  2. 世間知らず
  3. カッコいい人・かわいい人には疑いなく気を許す
  4. お人好し
  5. 信仰深い
  6. 先行き不安だ
  7. 寂しがり
  8. 楽して得したい
  9. 人任せ
  10. 無頓着(例:家の片づけをしない)
  11. 自信過剰

柏木信一, ”マルチ商法(Multi Level Marketing)問題の実態と規制について,”広島修道大学, Sep. 2005

では、直樹はこれらの項目にどれぐらい該当しているかというと、実は客観的にみてそれほど多くありません。人間関係や金銭感覚はクールなタイプで、10の無頓着のような「隙」もあまりない印象です。

ただ、この取材のために改めて直樹と話をし、過去のできごとを思い返してみると、実は「1.頼まれたら断れない」「4.お人好し」という素質が根底にあることに気づきます。直樹と私は性格や価値観が近いとお互いに認識していますが、どちらかがバランスをとらなくてはいけないときに、引くことが多かったのは彼だったのです。

表面上ではあまり感じることのない性格的な素養と、マルチ商法の話が持ちかけられたときに彼が直面していた極度な「6.先行き不安」。この2つが彼の判断を鈍らせたのだと感じました。

同じ轍をふまないためには

こういったものに陥らないためには、どうしたらいいのでしょうか。

先生は「おかしいことに気付けるセンスを磨くこと」と「自身を観察してくれる家族や友人を持っていること」の2つを挙げました。特に私が重要だと感じたのは後者です。

というのも、先ほどの11の項目で「2.世間知らず」や「5.信仰深い」は該当しないと感じられたように、「おかしいことに気付けるセンス(物事を客観視するセンス、冷静さ)」を直樹は持っていました。それでも騙されたということは、自分一人の対策には限りがある、ということです。

私自身、今回のできごとを家族に話し、もしおかしなことに気づいたら指摘してほしい、と伝えました。自分自身を、また家族や大切な友人を守るため、ぜひ一度、まわりの人と話をしてみてください。