大学の構内や近隣施設に掲示されている「サークルを装った勧誘活動に注意」というポスター。新入生を迎える春は、特に大学側も注意喚起を強めます。

勧誘目的の一つとして有名なのが「ネットワークビジネス」です。

ネットワークビジネスにはまった親友(当時30歳)を2か月にわたって説得した経験から、何がきっかけだったのか、どのようにマインドコントロールされていったのか、なぜ最終的にマインドコントロールから脱することができたのか…を、本人や大学教授への取材を通して明らかにします。

※記事内の人物名、商品名は仮名です。

親友との「サシ飲み」

親友・直樹に「飲みに行こう」と誘われたのは2017年2月。

直樹とは地元の公立中学校で知り合い、同じ高校に進学したり、中高で部活が一緒だったり、大学以降も地元で作ったフットサルチームで定期的に顔を合わせたりと、20年近く付き合ってきました。

念願の彼女ができたもののうまくいっていないと聞いていたので、そのアドバイスをする気満々でお気に入りの居酒屋の個室を予約。関西風おでんと日本酒を楽しみつつ、あれこれ話をしていたところ、「副業を始めようと思っていて」と切り出されます。

その副業とは、化粧品・栄養補助食品「グリーンレーベル」の販売。いわゆるネットワークビジネスだったのです。

共通の友人を誘おうとするも「今回は2人でもいい?」との返事。
この時は「子どもでもできたのか…」などとのんきに考えていたが…。

ネットワークビジネスとは

ネットワークビジネスの仕組みはご存じでしょうか。「マルチ商法」や「ねずみ講」という言い方もされています(厳密には完全同一のビジネスモデルではありません)。

ある商品を買ったあと別の人に同じ商品を勧め、勧められて買った人がまた別の人を勧誘する…。こうして次々と勧誘して、販売網を広げていきます。勧誘に成功すると「紹介料」などの報酬があるため、下に会員を増やせば増やすほどもうかる仕組みになっています。アムウェイやニュースキン、ナチュラリープラスなど、この販売形態をもつ企業は多く存在します。

悪用すると多くの人をだますことができるため、特定商取引に関する法律で厳しい規制がかかっています。お金の被害だけではなく、友人や知人を無理やり引き込むことで人間関係をこわしてしまうリスクもあるため、学校教育でも注意喚起がなされています。

【参考】特定商取引法ガイド 連鎖販売取引

「今思い返すと、特殊な雰囲気だったと思う」

当時、直樹は新卒で入った会社を辞め、契約社員として働いている時期でした。仕事を辞めたのは、直樹の母親がリウマチとがんに罹患したためです。

早くに父親を亡くしており、自身の仕事も地方での長期滞在が中心のため、身の回りの世話をできる人がいません。直樹は母親のために、仕事を辞めていたのです。

そんな中、ネットワークビジネスの触手が彼の身に及びます。きっかけは同じく中学時代からの親友である、梶川から誘われたフットサルでした。

フットサルのあとバーベキューで懇親を深めるという作りになっていて、月に1回のペースで開催されています。その場でネットワークビジネスの勧誘がされたわけではなく、仕事の内容や、誰の紹介で参加したのかなど、一般的な世間話をしただけだそうです。

そのイベントに直樹は2016年の5、6月に参加します。

今思い返すと、他のフットサルに比べて特殊な雰囲気だったと思う。横のつながりを広げよう的なメッセージが強かったというか…

そのイベントのグループLINEは、直樹が参加したときは100人程度でしたが、やめるころには200人まで増えていたといいます。

「働き方を変えたい人向けのイベントがあるけど行く?」

6月下旬、直樹は梶川から3対3の合コンに誘われます。

男性側のもう一人が、梶川と小学校の同窓生だった斉藤でした。斉藤自身は別の中学校に通っていたものの、私たちの中学校の同窓生のこともよく知っていたそうです。

2週間後、今度は斉藤から合コンの誘いがきます。

斉藤が開いた6対6の合コン。そのメンバーの中に、グリーンレーベルの1グループをまとめる「グループ長」、広瀬がいました。

この合コンの1週間後、今度は広瀬から「1対1で飲みに行かないか」と誘われます。

母親から体調の問題は口外しないよう言われていたため、その件には触れませんでしたが、前職が激務であったこと、働き方について考えていることなどを話します。

その話を聞いた広瀬が切り出します。

今週日曜に働き方を変えたい人向けのイベントがあるけど行ってみる?スーツ着用だけど

深まっていく洗脳

7月中旬、直樹は関内ホールにいました。参加者は100人程度。

きっかけとなったフットサルやバーベキューに参加していた人が何人もいることに気付きますが、100人もの参加者だったこともあり、「たまたま」の印象しか持たなかったといいます。

直樹が参加していたのは新規向けのセミナーでした。4回目に参加したセミナーは横浜開港記念会館で開かれており、「きちんとした場所」であることも、疑う気持ちを持てなかった一因だったと直樹は振り返ります。

「栄養バランス」や「先々の健康」といったキーワードとともに、直樹は「グリーンレーベル」という商品、そしてそれを軸にしたビジネスが存在することを知ります。

国の重要文化財に指定され、横浜市中区公会堂としても利用されている。

商品の流通は基本的にインターネットで行われていますが、実物に触れられる店舗も存在します。直樹は8月頃に訪問しました。

紹介者1人に対して1~4人がついているツアー形式で、全体で40人ほどが店舗に訪れていたそうです。店舗は横浜や新宿など大きな都市にあり、これもまた信用する材料になってしまったと直樹は言います。

私も行ったことがある大型ビル内に店舗が…(写真はイメージです)。

ここで直樹は、商品の購入を決めます。病状がよくない母親の姿、そして「自分も同じ病気にかかるのではないか」という恐れが、セミナーや店舗訪問で刷り込まれた「栄養バランス」や「先々の健康」というキーワードと結びついたのです。

購入にあたっては「紹介者」を登録する必要があり、グループ長・広瀬からのすすめで斉藤を指名しました。ネットワークビジネスの歯車の一つに組み込まれた瞬間です。

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サークルを装った勧誘活動に要注意!飲み会やイベントにひそむ「ネットワークビジネス」のワナ(中編)に続きます。

商品を販売する「ディストリビューター」の道に足を踏み入れた直樹。私や友人たちがどのように説得し、ネットワークビジネスの世界から奪還したか、ぜひご覧ください。