DX(デジタルトランスフォーメーション)が進みつつある成熟社会・日本で、教育や学びのすがたは、どのように変わっていくのでしょうか。子どもたちの中に育みたい力、学校のあり方、教員のあり方は――。変化が著しく、予測が難しい「VUCA」の時代だからこそ、目指す方向を示してくれる羅針盤が求められています。朝日新聞社の仲間に加わった日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」代表理事の宮田純也さんに聞きました。

宮田 純也(みやた・なおや)
一般社団法人未来の先生フォーラム代表理事。早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。日本最大級の教育イベントである未来の先生フォーラムや約2億7千万円の奨学金の創設、通信制高校設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関する様々な企画や新規事業を実施。2023年10月には、創設した株式会社未来の学校教育が未来の先生フォーラムとともに朝日新聞社にグループイン。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。編著に「SCHOOL SHIFT」(明治図書出版)、監修に「16歳からのライフ・シフト」(リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット著、東洋経済新報社)。

――「今」という時代を、どんな時代だととらえていますか。

仏の哲学者リオタールはかつて、著書「ポスト・モダンの条件」の中で「大きな物語の終焉」ということを書きました。近代社会特有の世界観、人間観が崩れていくという趣旨で、これからは小さな物語が無数に出てきて、わかりにくい時代になる、と指摘したのです。日本社会で言えば、良い大学、良い会社に入るといった多くの人の共通の目標が崩れるということです。そもそも、「良い」ということが多義化しています。

「自分」が問い、「小さな物語」が生まれる時代

今まさに「大きな物語」から「小さな物語」への転換が進み、その勢いがますます増しています。どんな人生を歩むのか、自分なりに考えて行動する重要性が高まり、「人生100年時代」で寿命が延びることで、その軌跡はますますオリジナルなものになっていく。「自分」ということを問わざるを得ない時代になると思います。

明治期、福沢諭吉が「学問のすすめ」で勧めた学問とは、読み書きやそろばんなどの実学でした。識字率がほぼ100%となった今の日本では、それらは既に前提になっています。さらに情報通信技術(ICT)が社会や生活を大きく変える情報革命により、情報や知識の価値は相対的に下がってきました。となると、既存の知識などを組み合わせて新たな価値を創造していくこと、より高次な知恵をつくっていくことが大事になります。学びは「読み書き、そろばん」の時代から高度化してきているのです。

またICTの急速な進展は、私たち一人ひとりを情報の受発信の主体として強化しました。ということは、一人ひとりの可能性、一人ひとりの世界も大きく広がってきたのではないかと思うのです。中東の民主化運動「アラブの春」はSNSの影響で拡大したと言われています。巨大な資本を持たないYouTuberが、人の役に立つ情報を直接発信することで社会にインパクトを与え、結果として社会的な信用や地位、財産を得ることもできる。情報革命によって「小さな物語」がどんどん生まれています。

――その中で「学び」の意味合いやかたちは、どのように変わっていくのでしょうか。

「小さな物語」というのは、みんながYouTuberを目指すということではなく、あれもアリ、これもアリということで、何が真実なのかはだれにもわかりません。何を信じていけばいいのか、みんなが探し求めている。それが今の時代の特徴ではないでしょうか。だから、自分とは何なのか、問い続けなければなりません。そして、自分なりに試行錯誤して自分の人生をデザインしていくことが必要です。社会に対しても、自分に対しても問うて実践していく探究的な学びがますます大事になります。

「学び」は高次化 でも恩恵はより大きく

学校教育は今、「カリキュラム・オーバーロード」と言われるように、学ばなければならない内容が増えて大変な状況になっています。ただ、仕方がない部分もあります。複雑に構造化した社会で生きていくには、学びは高次化せざるを得ないからです。残念ながら、あなたのままでいい、ということではありません。学び、実践し続ける努力は必要です。でもその分、学ぶことによる恩恵も今まで以上に大きくなっている。可能性が広がっているから頑張って取りに行こう、という時代なのです。その準備を学校教育でしよう、ということです。

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「未来の先生フォーラム」代表理事の宮田純也さん

授業のあり方もさらに変化していくと思います。ICTのツールによって「個別最適な学び」や「協働的な学び」など、授業実践のレパートリーはどんどん増える。デジタルというのは基本的に、低廉なコストで何度でもトライできる、そしてリアルタイムで他者と共有・協働ができるという特徴がありますから。そうなると、今までのように座って何時間も授業を受けて、テストでそこそこの点数を取れば学んだとみなす形式的なものから脱却し、コンピテンシー(能力や特性)を育てるものになっていきます。